本研究は、雑音によるマスキング効果を利用して高い安全性を実現する物理暗号を光無線通信に適用し、高い安全性と低遅延性を両立するセキュア光無線通信方式を検証することを目的としている。検証に向け、光ファイバと空間を相互変換する全光型アンテナ、安全性向上・低遅延性、セキュア光無線通信方式の三つを課題設定した。全光型アンテナは電子回路を介在せずに光のまま変換することを特徴とする光アンテナで、広帯域性、低遅延性、プロトコル無依存性など光通信の特徴を活用できる。初年度に、全光型アンテナの研究を実施し、二つの全光型アンテナを対向に設置した構成の評価系を構築した。昨年度は、対向させた全光型アンテナを30メートル離れた場所に設置し、セキュア光無線通信を実施し、リアルタイム暗号通信でビット誤り率が10-9を下回るセキュア通信実験に成功した。 今年度は、残りの課題である低遅延性およびプロトコル無依存性の実験検証を実施した。低遅延性はシグナルクオリティアナライザを使用し、送信機と受信機を直接接続し、暗号化と復号に要する時間を測定した。その結果、4.8マイクロ秒程度と一般的なブロック暗号と比較して遅延時間が極めて小さいことを検証した。プロトコロル無依存性は、異なるフォーマットのデータを暗号通信することにより検証した。検証実験では、全てのデータが擬似乱数で構成されるディジタル信号、代表的な通信規格であるギガビット・イーサネット(GbE)信号の2種類を用いて暗号化・復号の過程で発生する誤り率を測定した。暗号信号の受信に必要な十分高い光パワーにおいて誤り率は10-9を下回っていることを検証した。以上で、当初の目標は全て達成した。更に、データの暗号通信のみならず、暗号鍵の更新にも利用できることを実験検証し、計画以上の成果を得られた。
|