2021年度は,広間隔マイクロホン対を用いた高周波音を利用した音源定位法として,逐次更新ヒストグラム法とマイクロホン間の伝搬遅延特性のモデリングに基づく手法について検討を進めた。逐次更新ヒストグラム法では,音源方向推定手法として用いている信号部分空間法で相関行列算出時に必要な忘却係数値とヒストグラム作成時のセル幅の最適値について検討を進めた。その結果,忘却係数は音声の母音部の平均的な持続時間である0.2秒に相当する長さが適しており,ヒストグラムのセル幅は高周波ほど広く設定すべきとの結論に達した。これは低周波がおおよその目安を発見するため,一様分布に近づけたほうが有利であるのに対し,高周波はピークが形成されるように,ある程度広めに設定する必要があるためであり,定性的な検討と定量的な検証が一致する結果である。また,周波数帯域ごとの騒音レベルの違いに注目し,帯域ごとに適用する音源定位法を切り替える手法についても検討し,有効性を確認した。マイクロホン間の伝搬遅延特性のモデリングに基づく手法についても検討を進め,特に広角方向の推定精度が向上することを確認した。この手法では,マイクロホン間の伝搬特性をARMAモデルを用いて推定し,その群遅延特性から到達時間差を推定する。マイクロホン間隔が広い場合,空間サンプリング定理を満たさないため空間エイリアシングが発生し,誤推定の要因となるが,時間的なサンプリング定理は満たしているため,群遅延特性が到達時間差の推定法として有効活用できている点が特徴である。ただし,因果性を満たす必要があるため,遅れ位相になる方向にのみ適用可能であるが,検討手法では粗い方向推定結果を用いて,遅れ位相となるように推定系を切り替え,全ての方向に対して精度の高い結果が得られることを確認した。
|