研究課題/領域番号 |
19K04412
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
栗田 太作 東海大学, 情報教育センター, 准教授 (10547970)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | NIRS / 修正ビア・ランバート則 / 拍動成分 / 血圧心拍波形 / トリガー / NIRS信号の積算 |
研究実績の概要 |
近赤外分光法(NIRS)において、定性的ヘモグロビン(Hb)濃度変化を測定する修正ビア・ランバート則(MBL)により酸素化および脱酸素化Hb濃度長変化(ΔHbO、ΔHbR)の経時変化であるNIRS信号が得られる。我々は、MBLにより得られた脳のNIRS信号に含まれる微弱な脈派(拍動成分)に着目している。ΔHbRの拍動成分(P-ΔHbR)は、P-ΔHbOと比べ検出感度や信号対雑音(SN)比が低いため、観測することが困難であった。該当年度の研究実施計画では、脳のP-ΔHbRのSN比が更に向上するNIRSデータの積算アルゴリズムを検討した。また、脳酸素化状態を変化させP-ΔHbOとP-ΔHbRの動態を調査した。 実施内容として、前年度と同様にラットの頭蓋半透明モデルを作製し、オプトード(光照射部と光検出部の対)の分離距離(SD)を2.5、5.0、7.5、10.0 mmとして大脳辺縁上に設置した。NIRS信号は、血圧データと同時にサンプリング時間5.12×10-3 secで取得した。積算アルゴリズムは、得られた血圧心拍波形の移動平均波形を求め、更にその微分波形に対し、拡張期から収縮期の変曲点を検出し開始点(トリガー)とした。血圧心拍波形毎のトリガーでNIRSデータを16分間約5000回積算した。また、呼吸管理により脳酸素化状態を変化させた。 研究の成果として、脳のNIRS信号を16分間積算するとSD 2.5-7.5 mmのP-ΔHbRは、P-ΔHbOがプラス側であったのに対し、マイナス側(逆位相)となったが、SD 10.0 mm では認められなかった。低O2・高CO2状態のP-ΔHbRは、 P-ΔHbOと同位相になることが認められた。従って、P-ΔHbRは、変曲点をトリガーに用いることでSN比がより向上し、プロファイルが明確になると考えられた。また、P-ΔHbOとP-ΔHbRは、酸素動態との関連性があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
積算アルゴリズムにおいて、前年度作成したソフトウェアは、得られた血圧心拍波形の平均値がゼロとなるゼロクロス位置を積算のトリガーとし、血圧心拍波形毎のトリガーを用いNIRSデータを積算した。このアルゴリズムは、16分間の測定中に血圧変動が起こらないこと、すなわち平均血圧が一定であることを前提とした。しかしながら、測定中に起こった僅かな血圧変動に起因する血圧心拍波形の変化は、平均値がゼロとならないため、結果としてゼロクロス位置が追従できなくなり、トリガーに誤差が生じた。そのため、該当年度では脳のP-ΔHbRのSN比が更に向上するNIRSデータの積算アルゴリズムを検討した。ソフトウェアの作成では、得られた血圧心拍波形の移動平均波形を求め、更にその微分波形を求めた。微分波形の変曲点は、1つの血圧心拍波形に対し2点存在するので、血圧心拍波形の拡張期から収縮期間に検出された変曲点をトリガーに用いた。このソフトウェアを使用し、NIRSデータを16分間約5000回積算した。 その結果、特にP-ΔHbRのプロファイルは、前年度と比較し明確となった。このことは、P-ΔHbOとP-ΔHbRの面積を算出することが可能となり、脳酸素化状態との関連性を定量的に評価できる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として、研究計画調書に従って行う。定量的指標として、P-ΔHbOとP-ΔHbRの面積から、何らかの数理モデルを使用して脳内の見かけの動脈血酸素飽和度(Apparent SpO2)を導出し、酸素状態との関係を調査する。また、頭皮上から得られたP-ΔHbOとP-ΔHbRを評価し、頭皮血流の影響を受けるか検討する。更にP-ΔHbOとP-ΔHbRの起源は、脳内のどの血管成分に由来するのか、脳酸素化状態を変化させ検討する。ラット頭蓋半透明モデルおよび頭皮モデルにおいて、酸素状態は、ラット人工呼吸器を用い、吸入酸素濃度を段階的に100から12 vol% O2(酸素体積濃度)と変化させ、1回換気量を8-10 ml/kg、呼吸数(RR)を30-90 回/分で呼吸管理して調整する。酸素状態の指標は、血液ガス分析装置を使用し、測定されたPO2(動脈血酸素分圧)とPCO2(動脈血二酸化炭素分圧)とする。NIRS測定は、O2分圧が約50-300 mmHg 、CO2分圧が約30-60 mmHgの範囲で調整された酸素状態で行う。 研究の課題は、P-ΔHbOとP-ΔHbRの面積から、何らかの数理モデルを使用して脳内の見かけの動脈血酸素飽和度(Apparent SpO2)を導出することである。P-ΔHbRの面積は、正常O2・CO2状態では、P-ΔHbOの面積がプラスであるのに対し、マイナスとなる。また、低O2状態でCO2を増加させると、マイナスからプラスに転じる傾向がある。このことは、Apparent SpO2がP-ΔHbOとP-ΔHbRとの面積の単純な割合(%)で表現できないことを意味する。そこで、P-ΔHbOとP-ΔHbRの面積データを用い、Apparent SpO2が記述できる何らかの数理モデルの導入が必要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 今年度の動物実験に関わる費用として支出するため。 (使用計画) 動物実験に関わる費用として使用する。
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