近年、近赤外分光法(NIRS)において、定性的ヘモグロビン(Hb)濃度変化を測定する修正ビア・ランバート則(MBL)により酸素化および脱酸素化Hb濃度長変化(ΔHbO2、ΔHb)の経時変化であるNIRS信号が、高時間分解能で得られるようになった。我々は、MBLにより得られた脳のNIRS信号に含まれる微弱な脈派(拍動成分)に着目している。ΔHbの拍動成分(P-ΔHb)は、P-ΔHbO2と比べ検出感度や信号対雑音(SN)比が低いため、観測困難であったが、前年度の成果として、高SN比が得られるNIRSデータの積算アルゴリズムを開発し、P-ΔHbが観測可能となった。最終年度の研究実施計画では、この積算アルゴリズムを用い、脳酸素化状態を変化させP-ΔHbO2とP-ΔHbの動態を更に調査した。 実施内容として、前年度と同様にラットの頭蓋半透明モデルを作製し、オプトード(光照射部と光検出部の対)の分離距離(SD)を2.5、5.0、7.5、10.0 mmとして大脳辺縁上に設置した。NIRS信号は、血圧データと同時にサンプリング時間5.12×10-3 secで取得した。NIRSデータは、積算アルゴリズムにより、P-ΔHbO2の起点と終点が確認できるように、オフセットを含めたデータポイント数を45-49に設定して、16分間約5000回積算した。ラット呼吸管理は、人工呼吸器を使用し、1回換気量を8 ml/kg、吸入酸素濃度を12-100 %、呼吸数を19-140 回/分とし、脳酸素化状態を変化させた。 研究の成果として、正常換気において、SD 2.5-7.5 mmのP-ΔHbの時間依存性は、P-ΔHbO2がプラス側に変化する波形であったのに対し、位相が反転した波形となった。低O2血症および低O2・高CO2血症時のP-ΔHb波形は、P-ΔHbO2と同位相に転じ、双方の波形の強度が各SDで増加した。 今後の研究の展開として、P-ΔHbおよびP-ΔHbO2波形の強度や形状が、脳酸素化状態の有用なパラメーターと成り得るか検討する。
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