溶液中に交流電界を印加した際、電界勾配により細胞の導電率、誘電率に関連した誘電泳動力が発生する。これに着目し、浮遊細胞の泳動速度から細胞に働く力を求め、これより細胞の誘電率・導電率を得るという全く新たな手法により、電極を細胞に接触させることなくインピーダンス・スペクトロスコピーを得る計測システムの確立を目指している。誘電泳動力は、細胞の誘電率εc、導電率σcと周囲溶液のそれらεs、σsから算出されるクラウジウス-モソッティ因子K(ω)の実数部と電界勾配から算出される。さらに進行波電界においてはK(ω)の複素部と関係する。そこで、電界勾配のみならず疑似進行波の発生も可能であり、さらに細胞の操作、分別を可能にする多電極システムの開発を行った。直径100μmの領域の周囲に8つの平面電極を配置した電気8重極電極システムにより電解質溶液中で、この微小な領域中の任意の点に電界の極小点を発生させ、負の誘電泳動力により赤血球やiPS細胞等の浮遊細胞をこの電界極小点に補足し、操作できることを確認した。さらに、各電極の電位を様々に変化させた場合の電界分布を、簡易モデルによるシミュレーションにより系統的に調査した結果、2~4の電界極小点を作り出し、それらの位置を制御することが可能であることが明らかとなり、赤血球やiPS細胞を用いた実験により、細胞群から目標の細胞のみを測定空間に残す手法を確立することができた。 進行波電界による誘電泳動力が測定できれば、より正確に細胞の誘電率、導電率を得ることができる。実際には隣接電極対にπ/2位相の異なる電界を印加することによる疑似進行波を用いるため、8重極電極を4対対向電極とした場合に発生する疑似進行波によって生じる誘電泳動力に関する理論的な考察を行った。疑似進行波電界では、K(ω)の実数部も関係することが明らかとなり、より正確なモデルの構築を行っている。
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