本研究は、研究代表者らの開発した合成開口レーダー(SAR)観測画像から建物・樹木を自動抽出するアルゴリズムを応用し、観測画像の「マッピング精度の改善」及び「建物方位角依存性の解明」という課題に取り組むものである。一番目の課題はSAR観測画像から抽出された情報について共通地図座標系で他データとの比較を行う上で、また二番目の課題は機械学習等による土地被覆分類の精度を向上させる上で基礎となる重要な課題である。 「マッピング精度の改善」については、航空機SARデータと検証用データを用いて昨年度までにある程度研究目的の達成を確認している。航空機SARデータでの実証に引き続き、今年度は衛星SARデータに対して適用可能性を検証した。その結果、建物フットプリントの抽出は可能であるものの、マッピング精度の改善までには至らなかった。ただし、解析した衛星SARデータがリピートパスによるものであったことが原因と目星は付いたため、それを念頭に置きつつ、今後研究を進めたいと考えている。 一方、「建物方位角依存性の解明」については、昨年度までの解析対象データの選定、及び解析環境の構築に引き続き、今年度は実際のデータを用いて建物方位角依存性についての統計解析を行った。その結果、建物ピクセルのみを自動抽出して解析したにも関わらず、反射強度のバラつきが統計的に大きいこと、また建物のフットプリントとその他の部分が異なる偏波依存性を示すことを新たに突き止めた。これらのメカニズムの解明には更なる研究が今後必要であるが、偏波を用いた土地被覆分類を行う上で有用な知見であると考えられる。更に、建物方位角依存性については先行研究で述べられているように偏波校正に応用できる可能性があり、ここで得られた知見は、建物のどの部分を用いて校正すれば良いか等、具体的な校正手段を決定する上で重要な役割を果たすと期待される。
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