研究課題/領域番号 |
19K04429
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
中静 真 千葉工業大学, 工学部, 教授 (10251787)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | PPG / 遠隔PPG / スパース信号表現 / センシング / 辞書学習 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
本年度は,研究課題の応用の一つとして,光学的に脈拍を計測するPPG(photoplethysmography)への適用を検討した.PPGの中でも,カメラから撮影された動画像から,非接触で心拍数を推定する遠隔PPGへの応用を検討した.撮影された動画像には,心拍に起因する輝度変化以外にも,照明の変動,体の動きによる輝度変化が含まれる.また,心拍信号は,時間をおいて繰り返し発生するスパースな係数と脈拍波形の畳み込みのモデルで表すことができる.そこで,画像から得られたRGBの3つ信号に対して結合畳み込み型辞書学習を適用し,RGB信号における脈拍波形とその発生を推定した.この方法では,事前に訓練用の信号を用いることなく,事前情報無しでカメラ画像から脈拍を推定することができる. 脈拍に起因する輝度変化とそれ以外を原因とする輝度変化は,加算されて混合される瞬時混合により,動画像から得られるRGB信号の3つの成分が生成される.既存の結合畳み込み型辞書学習で,この瞬時混合モデルを実現するために,辞書の学習のために制約を導入,学習アルゴリズムを提案した. 提案法を,8名の被験者をWebカメラで撮影した動画像へ適用し,脈拍の検出結果を接触型のセンサで得た脈拍と比較して評価を行った.さらに,独立成分分析(ICA)による推定結果と比較を行った.その結果,ICAと比較して提案法は雑音除去の効果があり,脈拍によっては,ICAより高い精度で脈拍数の推定が実現できることがわかった.また,微弱な輝度の変位を計測するために,画像に重畳した雑音の影響を軽減する必要がある.そのために,既存の非線形フィルタを深層化することで性能向上を図った雑音除去フィルタの導入を検討した.その結果,既存の手法と同程度の雑音除去能力で,動画像へ適用できる高速な雑音除去ネットワークを提案することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の遠隔PPGへの応用において,3つの異なる信号を統合してセンシングを行うための信号モデルと,その推定法が提案できた.現状では,3つの信号ともビデオから得られる画像情報である.これらの信号に加えて,異なるセンサ情報を用いるマルチモーダルによるセンシングを実現することは,現状では達成できていない.接触型センサから得られているデータを利用して,あらかじめ信号推定のための辞書学習を行い,推定精度を向上させることで,マルチモーダルの利点を主張する必要がある.また,いくつかの例で有効性を示すことができたものの,多くの人を対象とする実験を実施するまでにはいたらなかった.そのため,少人数のデータでのみ従来法と比較を行っているために,現状では信頼性の高い結果が得られていない.また,使用したWebカメラの信頼性が低く,正確なサンプリング間隔での計測が行われていない.今後,信頼性の高い実験結果を得るために高精度なカメラを用いた,制御された環境での実験が望まれる.
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今後の研究の推進方策 |
今後,遠隔PPGへの応用を中心に,結合畳み込み型辞書学習による信号推定の研究を進める.現状までは,実験室で計測したデータを用いて実験を行ってきたが,計測の信頼性,人数を増やすために,既存の顔動画像のデータベースを用いて実験を行い,結果を検討する.使用を検討しているデータベースから,動画像のみならず,心電図等のデータも抽出できるために,推定対象となる脈拍信号の真値に近いデータと動画像の異なるモダリティのデータを利用して,畳み込み型辞書の事前学習を検討する.さらに,データベースを用いて,現状の信号モデルの問題点を検討し,信号推定精度を改善する. また,事前学習により,学習に使用するデータと,推定対象となるデータの違いが,推定精度に影響を及ぼす可能性がある.学習と推定精度の関係について検証方法を検討し,学習データに対して依存性が低く汎用性の高い推定方法を提案する.
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次年度使用額が生じた理由 |
学会での研究発表を予定していたが,COVID19の影響によりオンラインでの発表が主体となり旅費が不要となった.また,多数の協力者を募り,推定の実験を行う予定であったため,謝金を計上していたが,実験が困難な状況となった.そこで,研究室内での実験の代わりに外部機関で作成されたデータベースを用いる予定である.また,次年度使用額を,このデータベースの提供を受けるために用いる予定である.
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