本年度は,前年度までの結果に基づき,顔画像からの瞬き検出に畳み込み型辞書学習を応用した.また,信号の合成モデルである畳み込み型辞書学習に対して,信号の解析モデルとなる畳み込み型ネットワークに対する検討を行った. 畳み込み型辞書学習は,疎らに繰り返し発生する複数の種類の波形を辞書として学習する.信号分離への応用では,学習された辞書を用いて信号を分解し,分離対象となる信号を表す辞書から分離信号を抽出する.本年度は,センシングの対象として,顔画像からの瞬きの検出を検討した.瞬きの発生する間隔,頻度は,人間のストレスや心理的な状態の観測に用いられてきた.本研究で研究の対象となる畳み込み型辞書学習は,信号の突発的な変動でも,繰り返し発生するならば,その波形を学習する.この性質を用いて,顔全体のビデオ動画像から,1フレーム枚の平均値を求めることで時系列信号を生成し,この信号から瞬きの輝度変化成分のみを分離することを試みた.分離された信号から,ピーク検出を行うことで,瞬きの発生した時刻を推定した.顔全体の平均値からでは個人を特定することができないために,詳細な個人情報を保持しつつ,生体のセンシングを実現する方法となっている. 10名の被験者を対象に推定の実験を行い,再現率と精度で検出能力の評価を行った.実験から,辞書の学習と推定対象の人物を変えても,提案法は70%以上の適合率が得られることがわかった. 以上で利用した畳み込み型辞書学習は,信号の合成モデルであり,合成するために関数の最適化問題を解く必要がある.信号の分離のために長時間の計算が必要になる.これを解消するために,畳み込みの繰り返しの過程で,分離対象となる信号を推定し,繰り返し減算する方法(ディープε)を検討した.この方法を画像の雑音除去分離へ適用し,ガウス性雑音の分離が可能であることを示した.
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