研究実績の概要 |
2023年度は、水溶液試料を急速凍結する際に有効であった二層グラフェンなどの新炭素材料の物性を測定する手法の開発を行った。2層グラフェンは、そのねじれ角度を変えると、モアレ周期とともに物性が変化し、特定の角度においては超電導が発現することも報告されている(この新しい学問体系はツイストロニクスと呼ばれている)。この2層グラフェンシート上下の原子同士の重なり具合によって生じるモアレ周期と電子状態の関係性を明らかにした。2層グラフェンの炭素内殻(K殻)非占有π*ピークに、モアレ周期構造に由来するvan Hove 特異点を反映した5本のπ*ピークを確認した(Liu Ming et al., ACS Nano, 17, 18433, 2023)。この研究の中で、構造が等価である試料領域から二次元の構造情報とエネルギー情報(3次元のSpectrum Imagingデータ)を複数取得し、位置情報とエネルギー情報のずれを補正して積算することで、ノイズを低減した高品質のデータを再構築する手法を開発した。 研究期間全体を通して、極小の両親媒性有機分子で構成される自己集積型分子集合体膜の形成および崩壊過程に対し,最先端技術を搭載した走査/透過型電子顕微鏡により計測・評価し、ソフトマテリアルを高感度,高分解能,高速に原子・分子レベルで時間分解型の多次元測定を行う方法を開発した。また,大量に得られる実験データのノイズ除去技術や対象物質の画像認識技術を開発に成功している。100万個以上の分子集合体膜を取り扱う分子動力学計算と電子顕微鏡像シミュレーションを利用した理論解釈は、実験結果とともに重要な成果が得られており、論文投稿準備中である。実験データを試料作製プロセスへフィードバックする機械学習システムの有効性に関しては、装置の制御技術等の開発が進展し、具体的な材料に関して検証を開始した。
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