研究課題/領域番号 |
19K04448
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研究機関 | 東京都立産業技術高等専門学校 |
研究代表者 |
福永 修一 東京都立産業技術高等専門学校, ものづくり工学科, 准教授 (70402518)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | システム同定 / 機械学習 / ロバスト統計 |
研究実績の概要 |
本研究では異常値が含まれる観測データからシステムのパラメータや状態を推定するアルゴリズムを開発することが目的である.計画1年目にあたる2019年度は以下の3つの課題に取り組んだ. (1) 非線形系の同定において未知の非線形性をモデル化しやすいという観点からカーネル法が近年用いられることが多い.非線形系の逐次システム同定アルゴリズムとしてこれまでにカーネル法に基づく逐次最小二乗法が提案されている.しかしこの方法では観測データに異常値が含まれた際には推定性能が劣化してしまう.本研究ではロバストな指標であるベータダイバージェンスを用いることによりカーネル法に基づく逐次最小二乗法を拡張し,異常値が含まれたデータに対してロバストな推定アルゴリズムを提案した. (2) 情報技術の発達により容易に大量のデータを集めることが可能になったが,データ提供者のプライバシ侵害が問題となる.データのプライバシを保護する方法として本研究では暗号化されたデータを用いてモデルを推定する方法を採用する.暗号化されたデータからモデルを推定する方法はこれまで多く提案されてきたが,データに異常値が含まれた場合は考慮されてこなかった.本研究ではプライバシ保護機能を有するベータダイバージェンスを用いたロバストな推定手法を提案した. (3) 未知の非線形システムに対する状態推定の手法としてこれまでガウス過程回帰に基づくリスク鋭敏型フィルタが提案されている.この手法では未知の非線形システムをカーネル法の1つであるガウス過程回帰により近似し,その近似したシステムに対してリスク鋭敏型フィルタを構成している.本研究では非線形フィルタにリスク鋭敏型粒子フィルタを採用したことにより従来手法よりも推定精度の高い方法を提案した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は研究実績の概要で述べた3つの課題に取り組み,それぞれの課題に対して有効な手法を提案した.具体的な成果は以下の3つである. (1) 異常値に対してロバストなカーネル逐次最小二乗法はベータダイバージェンスの最小化に基づいて導出を行った.提案手法では新規のデータに対してはカーネル関数を新たに追加するが,新規のデータではなく外れ値であればカーネル関数を追加する必要はない.外れ値かどうかを判定するために,新たにしきい値をアルゴリズムに組み込むことにより効率的なカーネル関数の追加を行った.そして非線形システムの逐次同定のシミュレーションにより提案手法の有効性を示した. (2) 本研究では線形回帰モデルを対象としてプライバシ保護機能を有するベータダイバージェンスを用いたロバストな推定アルゴリズムを提案した.ベータダイバージェンスを用いたロバストな推定アルゴリズムでは非線形な重み関数により外れ値の除去を行う.しかしながら非線形関数は暗号プロトコル上では計算できないため,非線形な重み関数を多項式に近似することにより計算可能なアルゴリズムを提案した. (3) 提案手法であるガウス過程回帰に基づくリスク鋭敏型粒子フィルタは確率分布を近似するためのサンプルである粒子を増やすことにより推定精度を向上させることができる.非線形フィルタのベンチマーク問題において提案手法は従来手法である拡張カルマンフィルタやアンセンテッドカルマンフィルタを用いた方法よりも推定精度が向上したことを示した. 以上の3つの成果は学会にて発表を行い,現在は学術論文誌への投稿準備中である.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度はこれまでに得られた3つの成果をさらに発展させる方向で研究を実施する予定である. (1) システム同定のためにデータを取得することはコストがかかるため,実験の回数を抑えることが望ましい.2019年度に提案したベータダイバージェンスを用いたロバストなカーネル逐次最小二乗法において,データ数を抑えて推定を行うために応答曲面法を導入することを検討する.応答曲面法は効率的にデータを取得できる方法であり,近年ではベイズ最適化のもとになっている.提案手法に応答曲面法を導入することにより従来手法よりも効率的なシステム同定法の確立が期待できる. (2) これまでに提案したプライバシ保護機能を有するベータダイバージェンスを用いたロバスト線形回帰はデータが一括で得られた後にモデルのパラメータを推定している.2020年度は逐次的にデータが得られる状況においてモデルのパラメータを逐次的に推定するアルゴリズムに拡張を行うことを検討する. (3) ガウス過程回帰の特徴として関数の平均だけでなく分散も推定することが挙げられる.本研究で提案したガウス過程回帰に基づくリスク鋭敏型粒子フィルタではガウス過程回帰の平均しか用いていない.ガウス過程回帰の分散を考慮したアルゴリズムに改良することにより,効率的な粒子の生成が期待できる.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は実験補助のための人件費・謝金を予算に組み込んでいたが,当初の予定よりも効率的に実験を進めることができた.そのため実験補助を頼まずに予定通りに研究を遂行することができたため人件費・謝金を使用しなかった.次年度の成果発表の経費として使用する予定である.
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