研究課題/領域番号 |
19K04451
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
堀 憲之 筑波大学, システム情報系, 教授 (70312824)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 離散時間化 / 離散空間化 / 次数変化 |
研究実績の概要 |
通常モデルベース設計は連続時間系の枠組みで実施されるが、内部ではオフライン計算を含む離散化手法が使用されている。しかし、制御系など実時間処理が好ましい部分はオンライン計算可能な手法により検証したい。本研究は以下の3テーマに分けて計画してあり、初年度は以下の実績を得た。 (1)動的システムを常微分方程式で表現する際に次数は主に時間に由来して生じ、空間との関係が見えにくい。しかし偏微分方程式では空間と時間の両方が前面に現れるため、それらを考慮した次数の概念の導入と、それを従来の事例に当てはめた解釈を試みた。変数分離形の中の拡散系については時間も空間も厳密な離散化に成功しているが、従来法のように精度を得るためだけに次数を膨大に増やす必要がなくなった。この方法を波動方程式系へ拡張することが可能であるとの見通しを立てた。 (2)次数変化は状態変数の数の変化や積分器の個数の変化として理解できるが、系の内部では次数変化の前後でどのようなことが生じているかを一つの構造的変化として表現できる視点は提案していた。システムを表現する構造は無数に存在するため、この目的に適したものは他にも存在すると考えられ、色々と試みることで基礎を築いた。 このシステムはインパルスモードを含み、インパルス信号などが発生するため、その離散時間化を正式に導入する必要があった。これまでの関数の離散時間化の定義を超関数の離散時間化の定義に拡張し、有用な定理を導出した。 (3)連続時間では一点におけるn階微分は1点におけるn個の情報を必要とするn次連続時間系に現れるが、離散時間化すると一般的にはn点における値が必要なn次離散時間系となる。更にnと異なる次数の離散時間系も含まれるような、柔軟な離散時間化の定義や定理の提案に取り掛かり、これを拡張して時間の離散化と空間の離散化を共通化する概念の導出など、複数のアプローチを試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の各テーマについて理由を述べる。 1.時間と空間の両方の視点からの次数の解釈については、変数分離系について、拡散系の結果を波動方程式に拡張できる見通しが立った。現在国際会議においてその成果を発表できるように査読論文として投稿準備中である。 2.システムの次数変化を表現する内部構造とメカニズムについては、あるパラメータの特異摂動として構造変化を表現できるように工夫を行い、対角構造などについてもその制約と有用な点が判明しつつある。またこのシステムに含まれるインパルス信号の離散時間化は、一時点における値に注目してこれまで取り組んできた関数の離散時間化を、複数時点における値に注目することにより超関数の離散時間化にも適用が可能となった。この成果は雑誌論文[1]として公表した。 3.時間や空間の離散化による次数変化の検討と調整法については、複数の研究が進行中である。五次の真鍋多項式の次数変化は[3]で、次数が非整数の場合の離散時間化については[2]で、国際会議論文として発表した。また、部分的モデルマッチング法を用いて次数変化を許容する制御器を設計できることも示した。これは次数に関わるパラメータをコントローラゲインに含めることで、次数が変化しても新たな制御系の設計をし直す必要がないことを例示したものである。これは現在国際会議論文として執筆準備中である。なお文献[4]のプラント次数の決定は先行研究で検討した結果を受けてのものであり、次数変化に関して得られた知見を活かして制御を実行した論文である。 以上、当初考えていた3つの課題のすべてに取り掛かり、4つの論文を発表しているが、1.についてはまだ発表に至っていないこと、2.の内部構造については改良途中であること、3.は発展途上であることなどを考慮して、概ね順調とした。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は概ね順調であったため、二年目も当初立てていた計画に概ね沿って研究を行う方針であるが、特に以下に注力する予定である。 1.国際会議に現在投稿準備中である変数分離形以外の形の偏微分方程式系への拡張を試みる。また、入力が境界条件に入るようなシステムへの拡張も重要と考えている。まずは厳密離散化が可能な形を検討し、叶わないようであれば近似的な離散化も視野に入れたい。 2.超関数の離散時間化という大きな問題は解決でき、インパルスモードは動的モードの痕跡ととらえることで次数の低減化を説明できることはすでに示しているので、今後はインパルスと次数変化を表現するいろいろな内部構造について検討を続ける。デスクリプタ形式の他、伝達関数表示などについても調べたい。 3.次数変化は整数から非整数へ、更に分布次数へと拡張して行きたい。困難かと思うが、最終的には次数が連続的に変化する場合の検討も行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末において研究補助員の雇用時間の調整が付かなかったため。
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