今回研究費の助成を受けた研究課題に挙げられていた三つのテーマのうちの一つは、空間的に無限次元である波動方程式でモデル化される系の厳密離散時間・空間化手法の開発であったが、コロナ禍の影響のため、その成果を発表できずにいた。前年度までに提案していた変数分離法による拡散系の偏微分方程式の研究は、時間に関して1次、空間に関して2次の線形微分方程式に書き換えるものであり、それぞれの厳密な離散方程式の解を得てから求める方法であった。今回はこの手法を波動方程式へ拡張し、時間と空間ともに2次の厳密離散方程式を得ることができた。これを第一のアプローチとする。 変数分離を用いるこれらの手法では解は正弦関数の無限級数の形をしており、計算を実行する際には打ち切り誤差が生じえる。また初期条件も正弦関数の和で表現される必要があった。そのため、変数分離法とは全く異なる第二のアプローチとしてダランベールの解を用いる方法をも今回新たに検討した。この手法では初期条件が微分方程式の解として与えられる一般的な場合にも厳密に離散化が可能である。ただし、変数分離にはなかった制約としてこの方法においては空間が一次元の場合に適用が限られており、今後この条件を緩和することが望まれる。 以上二つの方法について代表的な数値例題を上げ、シミュレーションで提案手法が有効であることを確認した。これらの結果をまとめ、査読を受けて国際会議論文としてルクセンブルグにて対面で発表を行った。
|