研究課題/領域番号 |
19K04456
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
増田 士朗 東京都立大学, システムデザイン研究科, 教授 (60219334)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | データ駆動制御 / 定値制御 / 勾配推定 / 計測可能外乱 / 繰り返し調整 / フィードフォワード制御 / 閉ループ更新式 / 安定性評価 |
研究実績の概要 |
動作条件や外部環境などの変化によって制御量が変動する場合,その変動を抑制する制御器の調整が重要となる.申請研究では,ランダムに加わる外乱の外乱抑制性能を改善する制御器調整法を開発すること目的としている.そのため,制御問題として定値制御系におけるランダム外乱の外乱抑制問題に対し, 1) 定値制御データによる推定勾配を用いた制御器パラメータの繰り返し調整 2) 計測可能な環境情報データからのフィードフォワード制御器のデータ駆動調整,に関するアルゴリズム開発を主要な取り組みとなる.令和2年度では,令和元年度に開発した1) に関する手法を拡張することを主に進めた.具体的には,計測可能なランダム外乱が含まれる場合に対し,通常のフィードバック制御だけでなく,計測可能外乱からのフィードフォワード制御を行う問題を設定し,そのシステムに対して制御量分散で評価される評価関数の勾配ベクトルを推定する方法を与えた.その結果,周波数領域上のシステム同定で用いられるスペクトル解析法を導入したフィードバック制御器とフィードフォワード制御器の両者の評価関数に関する勾配ベクトルを推定する方法が得られた.これにより計測可能外乱が含まれる場合についてフィードバック制御器とフィードフォワード制御器の両者の制御器更新とデータ収集を繰り返す手法を与えることができた.また,この手法では制御器パラメータの更新に伴う閉ループ特性の更新式を導入することも行い,制御器パラメータ更新後の閉ループ系の安定性を評価することも可能にした.これらの研究成果は,計測自動制御学会第8回制御部門マルチシンポジウムで発表した.また,令和元年度に研究を進めた勾配推定と繰り返し調整を行わないデータ駆動制御手法を併用する手法については論文の形にまとめ,英文誌に投稿した.このように令和2年度では,令和元年度の成果をもとに着実に研究を進展させることができたと言える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,定値制御系におけるランダム外乱の外乱抑制問題に対し, 1) 定値制御データによる推定勾配を用いた制御器パラメータの繰り返し調整 2) 計測可能な環境情報データからのフィードフォワード補償器のデータ駆動調整,に関するアルゴリズム開発を行うことである.この問題に対し,令和元年度では,主に1) に関する取り組みを行うことで基本アルゴリズムの開発とその手法の課題抽出を行っていたのに対し,令和2年度では,令和元年度で明らかになった問題の解決に向けた取り組みを行った.また,1)における手法を拡張する形で2)の課題についての基本アルゴリズムを提案できたので,概ね順調に研究が進んでいると評価できる.具体的には,令和元年度で提案した1)の基本アルゴリズムでは,繰り返し調整を行う段階で数値的に不安定になる場合が生じたが今年度に考案した制御器パラメータの更新による閉ループ更新式に基づき,1)の基本アルゴリズムの数値的な不安定性を解消するとともに更新後の閉ループ特性の安定性を評価することを可能にした.さらに,課題2)の計測可能外乱が含まれる場合についての基本アルゴリズムの開発を行った.この手法では,計測可能外乱からのフィードフォワード制御器を付加する場合に対して,フィードバック制御器とフィードフォワード制御器の両者の制御器のパラメータ更新法を与えている.したがって,対象プロセスの環境情報や隣接する工程や前段の工程を発生原因とする外乱に対してフィードフォワード制御器によって性能改善する手法の基本アルゴリズムが提案できたと言える.したがって,1)の基本アルゴリズムとその課題解決に関する基本的な成果がそろえることができている点,また,2)の手法については基本アルゴリズムが提案済で,現時点では基本アルゴリズムの拡張を検討する段階に至っていると言える.
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は,令和2年度までに開発した制御器調整アルゴリズムの拡張を行い,提案法の完成度を高めることに取り組む.具体的には,2)の課題の計測可能外乱が含まれる場合に対して開発されたフィードバック制御器とフィードフォワード制御器の両者の制御器パラメータを更新する手法において,計測可能外乱として確定周期信号が加わった場合への拡張を検討する.令和2年度で開発した手法では,計測可能外乱をランダム外乱とモデリングされる場合について検討していたため,ランダム信号の周波数解析に有用なスペクトル解析法が有効に働いたが,確定周期信号の場合,周波数特性が離散周波数点に集中するため,勾配推定の精度が向上しないという問題があった.そこで,令和2年度では,それらの問題を解決する手法について取り組む.プロセス制御現場では,計測可能外乱として確定周期信号と想定できる場合も加わることも考えられるので,提案アルゴリズムの適用範囲を高めるために重要な課題と考えられる.また,提案法では,定値制御系から得られた制御系の出力データから閉ループ系の相補感度関数を推定する必要がある.令和元年度に提案した手法では,同じ外乱特性が加わっていると考えられる状況のもとで2種類の制御器パラメータを与えた出力結果を求め,その出力結果に対する時系列解析から相補感度関数の推定を行っている.しかし,この方法では最初に2種類の制御器パラメータによる制御器パラメータを設定する必要があるが,その2種類の制御器パラメータの選び方については十分に検討が行われていない.今年度は,この問題について閉ループ同定法の知見を援用しながら適切な初期制御器パラメータの設定の方法について検討する.また,様々な理論解析や提案アルゴリズムが有効に働くと考える応用例の検討などが今年度の研究推進方策と考えられる.
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次年度使用額が生じた理由 |
Covid-19のパンデミックにより,2020年度参加予定の学会がオンライン開催に変更になったり,次年度に延期されたため,執行予定の旅費や学会参加費が執行できず,次年度使用が生じた.次年度は,それらを踏まえ研究の推進をサポートする学生の臨時雇用にかかる費用や開発した制御アルゴリズムを検証する制御実験装置の購入にあてる.
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