研究課題/領域番号 |
19K04458
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
宮武 昌史 上智大学, 理工学部, 教授 (30318216)
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研究分担者 |
荒井 幸代 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (10372575)
近藤 圭一郎 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (10425895)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電気鉄道 / 省エネルギー / 輸送サービス / 知的制御 / 強化学習 |
研究実績の概要 |
物理現象を良く理解した機電系の研究者と人工知能を新たに制御に取り入れる情報系の研究者とが協調し,物理現象をきちんと考慮したうえで,人工知能技術を適用し,鉄道システムの省エネルギー及びサービス(所要時間と定時性)を高いレベルで実現する方法論を構築することが本研究課題の目的である。 その実現の第一段階となる当該年度にはまず,対象とする鉄道地上設備の物理モデル構築を行った。具体的には,列車の衝突を防ぐ信号保安システムや回生電力を考慮して列車を最小エネルギーで走行させるための解析モデルを検討し,省エネルギー性を評価した結果を論文として発表した。また,より正確な電力やエネルギー評価のための電力回路モデルについても検討を進めた。 次に,蓄電装置の充放電などを想定し,省エネルギーと機器(蓄電池等)寿命の二面的評価を考えた制御方法を検討した。具体的には,電圧によるルールベースの従来型蓄電池充放電制御方式に対し,今回新たに深層強化学習による制御方式を提案・改善し,双方の比較検討を行い,提案方式が省エネルギー及び充電状態の安定性において優位であることを確認し,その成果を学会で発表した。また,複数機器の制御について,自律分散的な考え方を導入する方法論の基礎についても検討し,その内容を学会で発表した。関連技術として蓄電池搭載電車についても検討を行い,蓄電池の充電状態によって電車の性能が変化することを考慮した複数駅間の走行時間配分を最適に決定する方法を構築して,省エネ効果を得られたため,その結果を論文として発表した。 さらに,回生電力の有効利用に関して,加速する電車と減速する電車のタイミングを合わせるための運行計画(ダイヤ)を遺伝的アルゴリズムで導出する方法論も確立し,省エネルギー効果及び小遅延に対するロバスト性を得たため,その成果も学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鉄道システムの省エネルギー及びサービス(所要時間と定時性)を高いレベルで実現する方法論を構築するという目的に対し,当該年度に得る予定であった第一段階としての成果をおおむね得ることができた。 個別には,当該年度中にある程度検討を進める予定だった電力回路のモデルの取り込みにやや遅れが見られるが,その一方で,次年度行う予定だった加速と減速のタイミングを合わせて回生電力を有効利用する制御に対し,運行計画の面からその有効性を予備的に確かめられた点で予定以上の進捗を得た。また,付帯的な進捗として,地上側設備だけでなく蓄電池搭載電車についても検討に踏み込めたことも挙げられる。 総合的に見て,深層強化学習による制御で一定の効果が得られることが示されたため,次年度以降も順調に研究を遂行できることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は,当該年度に概ね予定通り得られた成果を踏まえ,ほぼ当初の計画通りに次の研究を推進する。 ●2020年度: 車両側の制御として,加減速制御により加速する電車と減速する電車のタイミングを合わせ,回生電力の有効利用を図るリアルタイムの制御則を考える。車両側でどのような情報を利用するかを考慮し,強化学習による制御方法を検討しつつ,電圧をベースにした簡易な制御方法と比較を行う。車両側の物理モデル構築は近藤が中心となって宮武と協調しながら構築し,強化学習を用いた制御方法は荒井の知見を生かし,宮武と協調しながら構築する。 ●2021年度: 2年間の検討を踏まえ,地上側と車両側の制御を総合的に組み合わせ,列車の運行に関わる部分に踏み込む。省エネに加え,瞬時の電力デマンド,旅行時間,遅延リスクなどの多面的評価を考えた制御及び運行計画(ダイヤ)について検討を進める。さらに,アドバンストな将来の鉄道システムをも見据える。例えば,海外の一部地下鉄のようにダイヤのない運行を想定し,フレキシブルに省エネルギー,輸送力と所要時間のバランスを高度に取る制御を考える。遅延の概念が存在しない際のサービスの考え方を検討する。列車運行に関するモデル化は宮武が中心となり,近藤,荒井の助言を得ながら検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは,主に新型コロナウイルスの流行によるものである。具体的には,2~3月の学会参加を見送ったことと,一部物品の購入機会を逸してしまったことが影響した。しかし,年度末であったため,幸いにもこれらが当該年度の研究遂行に影響を及ぼすことはほとんどなかった。 なお,早稲田大学において多額の次年度使用額が生じたが,これは既存の所有設備等を利用して当該年度の研究が完結したためで,次年度での有効利用を目論んでのことである。 次年度(2020年度)も特に旅費や学会参加費の執行が少なくなるものと見込まれるが,シミュレーションを効率化するソフトウェアの購入やアルバイトの雇用により,研究の進度を早めるよう使用したい。
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