研究課題/領域番号 |
19K04465
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
森本 勝大 富山大学, 学術研究部工学系, 助教 (90717290)
|
研究分担者 |
中 茂樹 富山大学, 学術研究部工学系, 教授 (50242483)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 有機EL / 極性分子 / ダイポール / キャリア注入 / 注入障壁 / P(VDF/TrFE) / PEI |
研究実績の概要 |
本研究は有機ELデバイスの構成層であるキャリア注入層に、極性分子材料であるポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン(P(VDF/TrFE))を用いることで、キャリア注入およびデバイス特性向上を目的としている。また、デバイス性能に関する基礎研究として、キャリア注入時のエネルギー障壁という物理定数の算出と、エネルギー障壁とP(VDF/TrFE)膜の化学物理構造との相関解明を目指している。 2019年度は正極にP(VDF/TrFE)膜を成膜し、正孔注入に伴うデバイス性能を評価した。極性制御処置はコロナ放電法やコンタクトポーリング法を用いて検証し、コンタクトポーリングがより確度の高い結果が得られた。処置後の結果としてデバイス電流値が増加することを確認した。成膜したP(VDF/TrFE)膜全体の分極量はデバイス形成後には測定できないため、別途評価用サンプルを作製することで測定した。また、成膜に伴う正極全体の仕事関数の変化や表面電位は表面電位計や光電子収量分光を用いることで評価した。一方、微小領域における表面計測等は次年度へ持ち越しとした。 並行して電子注入のエネルギー障壁の算出した。測定精度の検証には参照材料を注入層とした場合の注入障壁を求めた。P(VDF/TrFE)膜においては、極性制御を行わないランダム分子状態での評価を実施し、正極/P(VDF/TrFE)/有機半導体層における電子注入障壁を実験的に求めた。 これらの内容を国内・国際学会にて発表するとともに、一部は英語論文として掲載し知的財産権としても申請済みである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度はP(VDF/TrFE)膜をスピンコート法により成膜し、5~50 nmに膜厚制御した。成膜後にはコロナ処理やコンタクトポーリング処理により薄膜分子のダイポール方向を制御した。当初コロナ処理が適用可能と考えていたが、コロナ処理ではP(VDF/TrFE)膜表面がチャージアップしてしまいデバイス測定時の電流値に重畳する現象が計測された。このチャージアップ現象はデバイス計測だけでなく、光電子収量分光からも裏付けられたため、デバイスへの適用は不適と判断した。そこで、別手法としてコンタクトポーリング処理へ移行した。ポーリング済みP(VDF/TrFE)膜を正孔注入層としてデバイスに組み込み、有機ELデバイス性能を評価するとポーリング無しに比べ低電圧化および電流密度向上という性能を得た(学会発表)。デバイス特性向上の結果を得たが、これが真にP(VDF/TrFE)膜のダイポール効果か否かの検証を継続して行う。
並行して極性材料であるP(VDF/TrFE)膜およびポリエチレンイミン膜を、キャリア注入層とした時の注入障壁を実験的に算出した。ともにダイポール制御無しのランダム配向時の薄膜とし、評価素子は半導体層のみを電極で挟み込む単純構造とした。電流-電圧特性の温度依存性から、いずれもトンネル注入と仮定することで精密に評価した。この結果は国際会議での発表に加え、査読付き英語論文として公開している。
|
今後の研究の推進方策 |
正極へP(VDF/TrFE)膜を成膜したときのデバイス特性向上を受けて、原理究明のため微小領域における表面構造や表面電位分布等を次年度は評価予定である。加えて正孔の注入障壁を算出することで、デバイス特性の裏付けとなる基礎評価を実施する。
負極への成膜は基礎評価が先行しているため、本年度知見をいかすことで効率よくデバイス性能評価へとつなげる予定である。また、P(VDF/TrFE)の極性による注入障壁を算出し、仕事関数との相関を明らかにすることで、極性分子による注入メカニズム解明を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していた微小領域表面計測装置が、本研究の要求性能に到達しておらず購入を見送った。本装置で計測予定の微小領域における表面構造や表面電位計測は外部分析機関へ有償測定依頼により対応可能であることを確認済みである。次年度使用額の一部は外部分析機関への依頼測定費に補填するため、本理由により研究進捗に支障をきたすことはない。
|