研究課題/領域番号 |
19K04468
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤平 哲也 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (00463878)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 酸化物 / 抵抗変化現象 / 透過型電子顕微鏡 / 第一原理計算 / 酸化チタン |
研究実績の概要 |
金属酸化物(SrTiO3,TiO2,GaOx)系の抵抗変化材料を基材として用いた2端子,4端子型メモリスタ素子を作製し,時間依存性を含めた電気特性の評価,電子顕微鏡による微細構造観察,理論計算による欠陥挙動シミュレーションを連携した解析を行った. 酸素欠損SrTiO3の時間緩和型メモリスタ挙動について,入力電圧振幅,時間間隔,雰囲気依存性を評価した.真空中では抵抗変化の顕著な緩和(時間にともなう減衰)が起こり入力電圧・間隔に対する依存性が観察された一方で,大気中では入力電圧によらず抵抗変化状態は長時間保持されることが明らかとなった.ルチル型TiO2およびアモルファスGaOxについて,パルスレーザー蒸着法で成長した薄膜を基材として平面4端子型,クロスバー2端子型メモリスタ素子を作製し,電気特性と微細構造の評価を行った.4端子および2端子への電圧印加モードをさまざまに変化させることにより,スパイク信号タイミング依存増強(STDP)や連合学習といった時間に依存した動的なシナプス様特性を再現し,制御することに成功した.さらに,TiO2とGaOxの系に関してTEMオペランド(電圧印加その場)観察用微細メモリスタ素子の作製と評価を行った.集束イオンビーム加工および電子線リソグラフィーを用いて作製した薄片化メモリスタ素子において,電子顕微鏡内で電圧を印加し,実際に抵抗変化挙動が得られることを確認した. 理論計算に関して,ドリフトと拡散に基づく2次元の有限要素シミュレーションモデルを構築し,多端子への電圧印加に伴うドーパント(酸素空孔)の2次元分布の動的挙動を解析した.酸素空孔の形成および移動の素過程を原子レベルで解析するために,ルチル型TiO2を対象として第一原理計算を行った.対向電荷配置法による外部電界印加条件下での計算を行い,エネルギーおよび原子構造に与える外部電界の効果を解析した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金属酸化物系の抵抗変化材料であるSrTiO3,TiO2,GaOxを対象としてメモリスタ素子を作製し,時間依存性を含む電気特性の評価,微細構造観察,欠陥挙動シミュレーションを連携した系統的な解析を行った.酸素欠損SrTiO3メモリスタの解析から,真空中では抵抗変化状態の緩和(減衰)が起こり,抵抗変化率の入力電圧・間隔への依存性が見られた一方で,大気中では抵抗変化状態は減衰せず長時間保持されることが明らかとなった.ルチル型TiO2およびアモルファスGaOx薄膜を基材としたメモリスタについて平面4端子型およびクロスバー2端子型素子を作製し,電気特性評価を行った結果,スパイク信号タイミング依存増強(STDP)や連合学習といった時間(信号タイミング)に依存した動的シナプス特性を再現し,制御できることがわかった.TiO2およびGaOxに関して,電圧印加その場TEM観察(オペランド観察)を行うための薄片化微細メモリスタ素子の作製と評価を行った.集束イオンビーム加工に加えて電子線リソグラフィー法も併用してさまざまな試料作製プロセスを検討し,電子顕微鏡内で電圧を印加して抵抗変化特性を示す試料を得ることに成功した.電気特性と微細構造変化の同時観察も試みているが,電圧印加中の素子の破壊が頻繁に起こる困難により,抵抗変化と同期した構造変化の観察はまだ行えていない.上記の実験観察と並行して,有限要素シミュレーションおよび第一原理計算による欠陥挙動の理論解析を行った.特に外部電場の効果を含めた第一原理計算に関して,スラブモデルを用いた対向電荷配置法(ダイポールシート法)による電界印加計算の方法を検討し,TiO2結晶中の酸素空孔挙動に与える外部電場の効果を解析した.以上の内容により,研究はおおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
SrTiO3系についての解析結果から,本系における抵抗変化特性の時間依存性は雰囲気に依存し,雰囲気以外の因子による緩和挙動の制御は困難であると考えられる.今後は,TiO2およびGaOxを主な基材としてメモリスタ素子を作製し,多端子への電圧印加パターンの変化により抵抗変化状態の時間的減衰を含めた動的シナプス挙動(たとえば短期/長期増強現象)を実現・制御できる動作モードの探索を行う.それとともに,TiO2およびGaOxの抵抗変化の起源となる動的微細構造変化のTEMオペランド観察を引き続き試行する.確実な電圧印加と堅牢性,電子線透過性を両立するとともに加工工程をできるだけ簡素化できるようなデバイスの構造と作製方法をさらに検討していく.光学顕微鏡観察ではドーパント分布が観測できないGaOxの微細構造観察は,同系のメモリスタ特性の理解と設計に対して有用な知見を与えると期待される.また,理論解析に関してはドリフト・拡散の有限要素シミュレーションを3次元に拡張するとともに,上記酸化物を対象として外部電場の効果を含めた欠陥形成・移動・集積過程の第一原理計算を系統的に進める.実験的観察と理論解析の結果を合わせて,メモリスタ特性の素過程となる欠陥現象とメモリスタ機構の解明を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に計画していた電気特性測定用の備品および試料作製・測定関連の消耗品の物品費,および機器使用料等(その他の費用)の支出が予定よりも少なかった.次年度において試料作製・特性評価用の物品費,および機器使用料を含むその他の費用で使用する計画である.
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