酸化物系材料を用いたメモリスタ(抵抗変化)素子を作製し,時間依存特性を含むシナプス特性の実装とバイアス印加その場電子顕微鏡観察を軸とする実験を行うとともに,欠陥挙動の理論計算を連携して行い,メモリスタ特性の発現機構を解析した. 前年度に引き続きパルスレーザー蒸着法により作製した酸化物薄膜を基材とし,平面4端子型,クロスバー2端子型,および透過電子顕微鏡(TEM)観察用微細2端子型メモリスタ素子を作製し,電気特性と微細構造の評価を連携して行った.ルチル型TiO2-x およびアモルファスGaOx 4端子メモリスタ素子において,時間依存型シナプス特性(スパイクタイミング依存増強,短期/長期増強・抑制)および連合学習(パブロフ型条件付け)特性を四端子電圧印加により実装・制御する条件を確立した.さらに,TiO2-x微細メモリスタ素子を用いたバイアス電圧印加その場TEM観察にもとづき,抵抗変化の起源となる酸素欠陥集積構造の生成・消滅過程を詳細に解析した.この解析により,電界の印加にともないナノスケールの欠陥集積構造(剪断面構造)が同一箇所に繰り返し生成・消滅することと,剪断面構造の生成に先立って起こるドーパント(酸素欠陥)の流動・凝集過程が抵抗変化に大きく寄与することを,初めて明らかにした.また,上記の実験と連携して,ドーパント再分布のドリフト・拡散モデルにもとづく有限要素シミュレーション,およびTiO2中酸素原子空孔の形成・移動過程の第一原理理論解析を行い,実験で観測されたドーパントの分布変化挙動と空孔欠陥の原子レベル素過程の相関を議論した.これらの電気特性および微細構造解析の結果から,メモリスタの動的抵抗変化特性の起源となる微視的な欠陥の構造とその動的な挙動について考察した.本研究の知見は動的な特性を示すメモリスタ素子のより高度な制御と設計につながると期待される.
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