研究課題/領域番号 |
19K04471
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
湯浅 裕美 (福澤裕美) 九州大学, システム情報科学研究院, 教授 (20756233)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 90度磁気結合 / 疑似反強磁性層 / スピントルク発振 |
研究実績の概要 |
実験と計算の2本立てとして進めている。実験においては、2層の強磁性層間のスペーサ材料として、従来用いてきたFe-Oよりも90度磁気結合エネルギーの大きいCrを見出した。さらにこれら90度結合の温度依存性を調べたところ、冷却につれ90度磁気結合が増大する事が分かった。単なる強磁性層の保磁力の温度依存性では説明できない変化量である。また、強磁性層のうち1層を固着する反強磁性層IrMnによる交換結合の温度依存性でも説明できない変化量である。90度磁気結合の発現機構には複数モデルが提唱されており、今回得た温度依存性からFe-OやCrがどのモデルに適合するかを見出すことが出来る。 また、マイクロマグネティックシミュレーションで用いる既存のLLG方程式に対し、独自の90度磁気結合の項を追加し、初期磁化配列の設計を行った。スピントルクは、2層の初期磁化が完全反平行よりも90度関係にある場合に、少ない電流でも伝わりやすい。つまり、低電流でスピントルク発振を得るには、2層の強磁性層が面内磁化膜と垂直磁化膜で構成されていると、スピントルク発振が生じやすいことを、LLGシミュレーションから明らかにした。一方、このような初期磁化状態では、電流を増して周波数を上げようとすると、トルクが掛かり過ぎて磁化がすぐに反転してしまう。スピントルクの伝わり易さは、発振発現を促進するメリットだけでなく、反転させてしまうデメリットも持つことが分かった。このジレンマに対し、90度磁気結合を導入することで解決できることを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通り、微細素子加工のプロセスの立上げを行い、概ねの条件出しを行ったところである。最終年度に掛かるかこれまで得たナノ加工プロセスの知見で、スピントルク発振を実証する素子を作製する。併せて、90度磁気結合の発現メカニズムに迫る実験も遂行し、2つの進展が得られた。第一は90度磁気結合の大きさを制御するパラメータ(スペーサ材料など)の拡張である。今回見出したCrのもつ90度磁気結合はCrの膜厚によっても大きく異なるため、制御できる範囲が拡大できた。第二はこの温度依存性を調査したことである。メカニズム解明に着手した。 また、LLGマイクロマグネティックシミュレーションでは、スピントルク発振の発現と周波数制御の観点で設計を進めた。従来提案していた面内磁化膜だけでなく、新たにオルソゴナル構造を検討し、そこへ90度磁気結合を導入したことで、スピントルクは伝わりやすいが、磁化反転は留めるという条件を見出すことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
微細素子を作製し、擬似反強磁性層のスピントルク発振を実証する。このため、垂直通電素子の電気特性を確認し、その後スピントルクに必要となる高い電流密度での動作実験を行う。 擬似反強磁性層のスピントルクについては、これまで見出したスペーサ層の材料や膜厚を任意選択することで90度磁気結合の大きさを変調し、90度磁気結合と発振に必要な電流値の相関、90度磁気結合と得られる周波数との相関を取る。実際の素子では発熱などの影響も入る。理想的なシミュレーション条件に実験結果をフィードバックし、現実的な設計が出来るようにする。オルソゴナル構造におけるスピントルク発振も、微細素子化して発振の安定を実証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由)今回繰り越しが生じた主な要因は、コロナ禍で出張が制限されたことと、実験で使う消耗品量が減ったことであるが、その中でも節約に努めた効果も出ている。 (計画)2021年度も出張が無い事は同様ではあるが、前年度ほぼ使わなかった素子作成費に予算廻す。
|