研究課題/領域番号 |
19K04472
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
柳井 武志 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (30404239)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 磁性材料 / めっき / 厚膜 / ハロゲンイオン |
研究実績の概要 |
2019年度は,医療・歯科応用を目指した小型磁石膜,具体的には電析法で作製したFe-Pt厚膜の磁気特性に与えるめっき浴中のハロゲンイオンの影響を検討した。まず,ハロゲンイオン種として塩化物イオンに着目した。めっき浴内に塩化物イオンが存在する場合,磁石膜の性能指標の一つである保磁力が低減することがわかった。Fe-Pt電析膜は,成膜直後は不規則相であり,700℃程度の熱処理(規則化熱処理と呼ぶ)により,規則相へ変態し,優れた硬磁気特性を示す。めっき浴内に塩化物イオンが存在した場合,規則化を妨げ,結果として保磁力が低減することがわかった。永久磁石用途で使用する場合,保磁力は大きい値が望ましいため,塩化物イオンの存在は,磁気特性を劣化させることになる。これに対しては,めっき浴内にアルカリ金属イオン(ナトリウムイオン)を供給すると改善できることがわかった。塩化物イオンフリーのめっき浴を新たに提案し,磁気特性を評価したところ,保磁力が膜厚に依存することがわかった。具体的には,膜厚を増加させると保磁力が増加することがわかった。保磁力が膜厚に依存する点に関して詳細を検討したところ,基板として用いたCuが規則化熱処理時にFe-Pt膜内へ侵入し,Fe-Pt-Cu相を形成することにより磁気特性を劣化させることがわかった。Cu拡散の抑制として,短時間での高出力熱処理(フラッシュアニーリング)を採用したところ,磁気特性が改善し,ドライプロセスで作製した既報のFe-Pt厚膜の磁気特性に匹敵する優れた磁気特性を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は建屋改修工事に伴う研究設備の移動があり,研究遂行ができない期間があったが,おおむね予定通りに進んだ。 研究計画では,軟磁性材料と硬磁性材料の両材料に対して,ハロゲンイオンの影響の検討を進める予定であったが,中断期間の影響などもあり,軟磁性材料の方は学会発表できるまでのデータ取得には至らなかった。一方,硬磁性材料のFe-Pt系の厚膜に関しては,ほぼ想定通りに検討を進めることができ,国際会議で2件の発表を行った。Fe-Pt厚膜の検討に対しては,当初はハロゲンイオンによる特性改善を期待していたが,逆に特性を劣化させる要因になることがわかった点が想定外の点であった。この点に関して,成果をまとめ,査読付き欧文誌へ投稿したところ,その論文がアクセプトされ掲載が決定した。 以上のように,ほぼ想定していた進捗状況であり,成果発表もできたことから,本課題の進捗状況はおおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように,当初はハロゲンイオンによる特性改善を期待していたが,Fe-Pt膜では逆に特性を劣化させる要因になることがわかった。本点に関して,検討を進めたところハロゲンイオンは硬磁気特性を劣化させるが,アルカリ金属イオンをめっき浴へ供給することで,劣化した磁気特性が回復することが明らかとなった。2020年度以降は研究題目で掲げた「ハロゲンイオン」とともに「アルカリ金属イオン」の役割についても検討を行う。軟磁性材料に関してはハロゲンイオンが磁気特性に与える影響を評価中であり,対外発表可能なほどデータが十分ではないので,引き続き研究計画に沿った検討を進める。研究計画では,電解めっき法による成膜を想定していたが,高周波用途でのニーズが高まっている現状を踏まえ,非導電性基板(高周波駆動下では,導電性基板ではうず電流損失が大きくなるので非導電性基板が有利)への成膜が可能な無電解めっき法で作製したFe-Ni軟磁性膜の磁気特性に与えるハロゲンイオンの影響についても研究をスタートさせる予定である。
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