2021年度は,塩化物(ハロゲンイオン)を利用したFe系軟磁性体の磁気特性改善と電析法で作製したFe-Pt厚膜磁石の磁気特性に与える低温熱処理の影響を検討した。まず,Fe系軟磁性体の磁気特性改善に関しては,従来,金属塩試薬として硫酸塩を用いていたが,電着応力を利用した磁気弾性効果による磁気特性改善を期待し,塩化物へと変更した。その結果,若干ではあるがFe-Ni系とFe-Co系合金膜で軟磁気特性が改善することを確認した。また,塩化コリン-エチレングリコールからなる新規めっき溶媒から作製したFe-Ni系合金膜の特性改善として,浴添加剤の効果を検討した。従来,グリシンがFe組成の多い領域で磁気特性改善効果があることを見出していたが,2021年度はホウ酸がFe組成の少ない領域で磁気特性改善効果があることを新たに見出した。組織観察を行ったところ,優れた軟磁気特性が得られた膜ではナノサイズでランダムな組織が観測され,微細組織の構築により軟磁気特性が改善することを確認した。Fe-Pt厚膜磁石に関しては,共析水素や塩素の量や状態が熱処理後の磁気特性に影響を与えると予想し,これまで行ってきた700℃の規則化熱処理の前段に,300℃程度の熱処理(低温熱処理)を施すことを検討した。その結果,低温熱処理の保持時間によって,磁気特性が変化し,低温熱処理のパターンの変更によって磁気特性の変化のしかたが変わることを確認した。低温熱処理による共析水素や塩素の量や状態の変化を具体的に把握することが今後の課題となった。
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