研究課題/領域番号 |
19K04474
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研究機関 | 九州産業大学 |
研究代表者 |
末吉 哲郎 九州産業大学, 理工学部, 准教授 (20315287)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高温超伝導体 / 臨界電流密度 / 異方性 / 磁束ピンニング / 照射欠陥 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は,高温超伝導薄膜内に重イオンビームを用いて形成される分断化したナノ線状欠陥(不連続なナノ線状欠陥,径:4-8 nm,長さおよび間隔:数10 nm)を用いて,その形状(長さおよび間隔),サイズ,方向を制御し,臨界電流密度Jc(電気抵抗ゼロで流せる電流密度の最大値)の現行値(ex. ~ 3 MA/cm2 @ 1 T)を超える磁束ピン止め構造の設計指針を得ることである. 令和3年度では,異なるエネルギーおよび異なるイオン種の重イオンビームを用いてナノ線状欠陥の連続性(試料を貫通する連続なナノ線状欠陥 → 短く分断化したナノ線状欠陥 → 透過型電子顕微鏡では確認できない小さな照射欠陥)を制御し,(A) ピン止め点となるナノ線状欠陥の形状(連続性)とJcの最大の増加をもたらす導入量の関係と (B) ナノ線状欠陥に特有の量子化磁束のダブルキンク励起による磁束クリープに対するナノ線状欠陥の短尺化の影響について調べた.試料を貫通する連続なナノ線状欠陥を導入した試料では,65 K以上の高温領域および低磁場でJcが飛躍的に増加するが,導入量が増加すると広範囲の温度・磁場領域でJcが低下した.一方,ナノ線状欠陥が短尺化し,導入量が増加すると,高温および40 K以下の低温領域においても高磁場までJcが増加することを確認した.また,ナノ線状欠陥が短尺化すると,磁化緩和率の減少に加えて,磁化緩和率がピークを示す温度が低温側にシフトすることを確認し,磁束クリープに対するナノ線状欠陥の短尺化の直接の影響を初めて明らかにした. 以上の結果は,高温超伝導薄膜の高Jc化に対して,高密度の短尺化したナノ線状欠陥はJcの絶対値およびJcの時間的減衰に関係する磁束クリープに対して,飛躍的に改善できるピン止め点であることを示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度の成果として,高温超伝導薄膜の高臨界電流密度Jc化に対してナノ線状欠陥の短尺化は,(A) 高密度化することで,従来強いピン止め点として考えられていた連続なナノ線状欠陥のピン止め特性を広範囲の温度・磁場領域で上回ることと,(B) Jc値の時間的減衰に関わる磁束クリープの抑制を促し,また磁化緩和率のピークを示す温度を低温側にシフトすることを明らかにした.ただし,令和3年度の当初の計画での,透過型電子顕微鏡による照射欠陥の微細構造観察まで至っておらず,特に高温超伝導薄膜の高Jc化を実現した50 MeV Krのイオンビームで形成されている照射欠陥の形状,サイズはまだ不明のままである.また,高Jc化を確認できた高密度化した短尺ナノ線状欠陥において,更に高Jc化を臨むことができるナノ線状欠陥の方向分散化を試みるまでに至っていない.このため,現在までの進捗状況を“やや遅れている”と評価した.
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度では,まず高温超伝導薄膜の高臨界電流密度Jc化を実現した50MeV Krビームによって導入されている短尺化したナノ線状欠陥の形状とサイズについて,透過型電子顕微鏡による観察により明らかにする.さらに,より軽いNiイオン等を用いて,より小さなナノ線状欠陥を高密度に導入し,高温超伝導薄膜の高Jc化を試みる,これらにより,高Jc化を実現するナノ線状欠陥の形状(連続性)と体積分率(密度)の関係を定量的に明らかにし,高機能高温超伝導薄膜の材料設計の道標を築く.以上について,令和4年度に新規で採択された基盤研究(C)課題とともに,重イオンビームを用いた高機能超伝導薄膜の材料設計についての研究を進めていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により国内外で開催予定の学会がオンライン開催に変更になったこと,および実験自体も時間的に制限せざるを得なかったことにより,旅費や実験備品購入に未使用額が生じた.未使用額については,令和4年度5月に予定している原子力機構(茨城県東海村)のタンデム加速器でのイオン照射実験における旅費と施設供用利用料金に対して使用する予定である.
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