研究課題
本研究課題の目的は,高温超伝導薄膜内に重イオンビームを用いて形成される分断化したナノ線状欠陥(不連続なナノ線状欠陥,径:4-8 nm,長さおよび間隔:数10 nm)を用いて,その形状(長さおよび間隔),サイズ,方向を制御し,臨界電流密度Jc(電気抵抗ゼロで流せる電流密度の最大値)の現行値(ex. ~ 3 MA/cm2 @ 1 T)を超える磁束ピン止め構造の設計指針を得ることである.最終年度の2022年度においては,高温超伝導薄膜に対して,電子的阻止能の異なる3種のイオンビームを用いて長さの異なる柱状欠陥を導入し,Jcの照射量依存性を調べることで,Jcを最大にするピン止め点の体積分率を評価し比較を行った.短い形状の照射欠陥ほど高い照射量で高磁場でのJcが高くなる傾向を示すが,一方でJcが最大となる照射欠陥の体積分率は,約10 vol.%と照射欠陥の形状にほぼ依らないことがTEM観察像から示唆された.この実験事実は,高温超伝導材料における現在のピン止め点導入によるJcの増加の頭打ちを解消する糸口になる可能性がある.以上の最終年度分を除く,本研究課題の研究期間全体を通じて得られた研究成果は,下記のとおりである.(1) 異方的な結晶構造をもつ高温超伝導体に対しては,同じイオン種の照射においても照射方向によって異なる形状の欠陥が形成されることを確認した.(2) 比較的軽い重イオン(Kr等)を用いることで,c軸に対して45度の角度までは短尺の柱状欠陥を導入できることを確認した.(3) 高温超伝導薄膜中に形成される照射欠陥の長さを,イオン種や照射エネルギーによって系統的に制御することで,磁束クリープに対する柱状欠陥の長さの直接的な影響を明らかにすることができた.
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IEEE Transactions on Applied Superconductivity
巻: 32 ページ: 1~4
10.1109/TASC.2022.3153436