研究課題/領域番号 |
19K04476
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
木下 健太郎 東京理科大学, 理学部第一部応用物理学科, 准教授 (60418118)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 抵抗変化メモリ / 金属酸化物 / 素励起 / 欠陥 / セレクタ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,金属酸化物(MO)膜内の環境変化に敏感な抵抗変化メモリ(ReRAM)の酸素欠陥フィラメントを高感度のセンサーとして利用する新たな欠陥検出手法を確立し,同手法により,申請者がReRAMの抵抗スイッチング現象の根底にあると考える新規励起過程の存在を検証することにある.ReRAM素子の作製が難航し, 試行錯誤を重ねる中で, 電極/CoO/電極構造において, 優れたセレクタ動作が確認された. 今年度はこのセレクタ素子の性能の特定と向上に取り組んだ。 Pt/CoO/Ptセレクタにおいて, 薄いCo層を導入することで, セレクタの動作特性の向上が確認された. Co層はCoO層から酸素を奪い, スパッタリング条件の調整だけでは実現が困難な酸化度の制御を可能とする. このCo層のスカベンジング効果を利用することでCoO層を適度に高抵抗化し, 適量のCo欠陥を含むCoO層を形成することで, セレクタ特性を発現させることに成功した. Pt/Co/CoO/Co/Pt素子は, スイッチング時間< 1 μs, Vth = 2.2 V, ON/OFF電流比20, スイッチング回数10^5回を達成した. 正確なセレクタ性能の評価にはパルス応答特性の評価が必須であることも示された. 一方, 酸化物への光照射効果に関する研究にも取り組んだ. Snドープ酸化インジウム(ITO)/NbドープSrTiO3 (Nb:STO)構造の面型ReRAM素子に対してUV光を照射し, Nb:STO空乏層中に自由電子-ホール対の生成を促した結果, 低抵抗値RLRSの減少が確認された. この現象はSTOの強い電子-格子相互作用故に, 発生したホールが自己束縛励起子を形成し, 結果として分子状酸素とVo対が生成されることで, Nb:STO空乏層内のVo濃度が増加したために生じた可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・Coスカベンジング層を上下に挿入したPt/Co/CoO/Co/Pt素子の基本性能を明らかにした。更に, 一般的に用いられるDC掃引測定では発熱の影響により正確なセレクタ性能の評価が妨げられ, 実際に用いられるケースと同様に, パルス電圧による評価が必須であることも明らかになった. これらの具体的な成果は今後の酸化物セレクタの研究開発における指針となるものである。 ・金属酸化物への光照射による欠陥の生成・移動をReRAMのフィラメントで高感度に捉えるのが当初の主要なコンセプトであった. しかし, フィラメントの局所性故に, フィラメント直近での素励起発生の確率が極めて低く, 検出に長時間を要することが明らかになってきた. フィラメントの本数を増やすことで検出確率の向上が期待されるが, フィラメントの本数制御に関する明確な指針は確立されていない. そこで, 面型ReRAMに分類される電極/ペロブスカイト酸化物構造素子に着目した. 狙いは次の通りである. 面型ReRAMはその名の通り電極/ペロブスカイト酸化物界面全体で抵抗化が生じるとされる. 故に, 高抵抗状態にある電極/ペロブスカイト酸化物素子にUV光を照射し, ペロブスカイト酸化物の空乏層内に欠陥の生成・移動が生じれば, それが何れの場所であったとしても抵抗値の変化として捉えることができるはずである. 結果として, ITO/Nb:STO においてUV光照射による抵抗値の減少が確認された. 本成果は局所で起こる極めて稀な減少を点ではなく, 面で捉えることの有効性を示しており, 光照射効果の解明に繋がる重要な知見を与えるものである. この様な金属酸化物における新規の励起現象の存在が示唆された一方で, 光刺激と電気刺激の両者による抵抗値制御が可能である特徴を生かし, 光信号による学習等, ユニークな応用へと発展する可能性もある.
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今後の研究の推進方策 |
今年度有効性が示された面型ReRAM素子について, 光照射効果の調査を進める. ペロブスカイト酸化物材料, 電極材料, 不純物ドーピング等, 光照射による欠陥の生成・消滅を調べるうえで有効なパラメータを系統的に振って, 抵抗変化の有無を詳細に調査する. 例えば, ITO/Nb:STO素子の抵抗値に対する照射光の波長依存性を明らかにすることで, ITO/Nb:STO素子において観測された抵抗の減少が誠に自由電子励起に起因するものであるか否か, 即ち, 光子のエネルギーがバンドギャップを超えた時にのみ生じる現象であるかを明らかにする必要がある. 当初の計画通り, フィラメント型ReRAMへの光照射効果についても測定の実施を目指す。フィラメント型ReRAMは高感度ながら検出領域が局所であるが故に、光照射によって発生すると期待される欠陥の生成・消滅を捉えるのに長時間を要するというデメリットが明らかになった。また、電極材料が透明金属に限定される点も一般性を欠く。そこで, 次年度は横型構造のReRAM素子の導入を検討している。絶縁体基板上に金属酸化物を堆積し, その上に形成された電極対の間にフィラメントを形成することで, 電極材料を選ばず光照射の影響を調べることが出来ると期待される. 表裏両側から光を入射し, その影響の差異についても明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が当初の計画とは異なる展開を見せたことから, 必要な機器, 物品を改めて精査する必要が生じたため, 2020年度は次年度へ向けて研究費の使用を抑えた. 次年度は, 残額を次年度予算と合わせ, 小型レーザー光源の購入等, 光学系の構築を進める.
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