研究課題/領域番号 |
19K04478
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
松田 和典 徳島文理大学, 理工学部, 教授 (10192337)
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研究分担者 |
長岡 史郎 香川高等専門学校, 電子システム工学科, 教授 (30300635)
筒井 一生 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (60188589)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ゲルマニウム / ピゾ抵抗効果 / 水素アニール / ホール効果 / 格子欠陥 / 酸素ドナー |
研究実績の概要 |
従来の研究ではp型Geのピエゾ抵抗係数の<100>方向の値が負になっているという異常な現象を解明することを主な目的としている.昨年度までの研究で,この係数が正であるが非常に小さいことが分かった.今年度はピエゾ抵抗係数の温度依存性と水素処理に対する影響を調べた. 実験は,CZ法で作製したGeにAl電極を蒸着した試料に,一軸性応力の方向に対して平行に作製し, 4点曲げ装置によって,<110>方向に引張および圧縮歪それぞれ500ppmまで負荷し,抵抗変化率からゲージ因子を求めた.ノンドープGeについて温度特性(65~-65℃)を調べた結果,室温においてゲージ因子が負(n型の特性)であったが,温度降下とともに増加し,-20℃より低温では正(p型の特性)へと変化した.また抵抗も温度依存性も-15℃を境に別の傾向が見られた.これらの結果は深い準位の存在がピエゾ抵抗に影響を与えていることを示唆している. 過去のSiによる研究では,酸素の存在による欠陥に起因する電気的影響が水素アニールによって改善できることが分かっている.また,東大の鳥海教授のグループによるGeデバイスの研究でも似たような効果があることを報告している.そこで,香川高専の山本准教授が開発した水素ラジカル処理装置を使い,金属触媒により発生させた水素ラジカルの雰囲気(温度850℃, 620℃,10~60分)で水素処理を試した.その結果,850℃で水素処理したノンドープGeはゲージ因子の符号が温度に依らず正(p型の特性)に反転し,抵抗の温度特性も劇的に変化した.さらに,室温でのホール効果測定では,いずれの条件においても水素処理前後でn型からp型へと反転した.このようなことから,Geには結晶欠陥に起因するドナーが存在する可能性があり,p型Geのピエゾ抵抗効果の異常な現象に同様の影響が現れているが考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
従来報告されているp型Geのピエゾ抵抗係数の<100>方向の値が負になっているという異常な現象は結晶欠陥と関係している可能性ある.東大の鳥海教授との情報交換や文献調査等により,Geの結晶製造はSiと異なりCZ法しか行われていないため結晶の完全性が低く,後工程の水素処理を行って結晶欠陥を不活性化する必要があることが分かった.このことは研究計画の想定外であった. しかし,水素処理を行うには爆発の危険性をともなうため,現在はどこも使用されていない.そのため検討していたところ,香川高専の長岡教授のグループで山本准教授が開発した水素ラジカル処理装置があることを知り,これによる水素アニールを試した.その結果,ピエゾ抵抗係数に劇的な変化が現れたが,この変化を検証するために,ホール効果などの別の測定を行う必要が生じた.このように本研究に新たな展開があったが,ここにたどり着くまでに期間を要し,計画が大幅に遅れた. また,コロナ禍のため,研究会や学会参加がオンラインで行われたことや,予定していた国際会議が延期になったため出張や学会参加などが計画より少なくなっている.
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今後の研究の推進方策 |
水素ラジカル処理を行うことによってノンドープGeのピエゾ抵抗係数について劇的な変化が起こることが確認できている.このことは,結晶欠陥がピエゾ抵抗効果に大きく関わっていることを示している. 今後はp型Geなどの他のGe試料についても水素ラジカル処理を行い,ピエゾ抵抗の温度依存性と結晶方向依存性,抵抗の温度依存性,ホール効果について調べる,またこれらの結果を相互に検証していくことにより,結晶欠陥と異常ピエゾ抵抗係数の関係を明らかにしていきたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
従来報告されているp型Geのピエゾ抵抗係数の異常な現象は結晶欠陥と関係している可能性ある.文献調査等によりGeの結晶の完全性が低く.結晶欠陥を不活性にするためには後工程の水素処理を行う必要があることが分かった.そのため,当初の研究計画に加えて水素処理を行うことにより,成果が得られているが,これを検証するためにホール効果などを測定を行う必要も生じた.これらの理由により研究計画が遅れた. また,コロナ禍のため,予定していた研究打合せや学会がオンラインで行われたため出張費や参加費など支出が計画より少なくなった. 次年度では,水素処理を行いながらピエゾ抵抗効果などの測定を行っていく必要があり,このための費用として使用します.また,国際会議などの開催が予定されており,参加費や旅費に使用します.
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