研究課題/領域番号 |
19K04479
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研究機関 | 小山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
今泉 文伸 小山工業高等専門学校, 機械工学科, 准教授 (10361205)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | BiFeO3 |
研究実績の概要 |
本研究では、IoT時代における環境にやさしいセンサモジュールの開発を行うことを目的とする。特に圧電材料や強誘電体材料の多くが、様々な分野で利用されることは間違いない。また、強誘電体材料に形状記憶特性が存在するという研究結果もある。 これまで多く利用されてきた鉛を含むPb(Zr,Ti)O3等の強誘電体材料に代わる新しい材料としてBiFeO3(以下ではBFOと表記)が注目されている。鉛は人体や環境への影響の問題から、様々な分野で利用の規制が始まっているため、鉛を使用しない強誘電体材料の開発が急務である。本研究では、これまでの強誘電体材料で使用されてきたチタン酸ジルコン酸鉛Pb(Zr,Ti)O3 等に代わり、鉛を含まず、環境にやさしい材料のBFO薄膜の材料開発を行う。その後、形状記憶特性等の機械的特性、電気的特性について調べる。 BFO薄膜はRFスパッタリング装置を用いて成膜した。RFスパッタリングでは、低いイオン照射エネルギーを用いることで、比較的簡単に高品質な薄膜を得ることができる。しかし、成膜後の薄膜中に酸素欠損に起因する欠陥が多く存在し、成膜後の熱処理を行っても欠陥を完全に消滅することができていない問題がある。そのため、現在は酸素欠損を少なくするためのプロセスの研究が多く行われている。また、下地基板との密着性についても十分検討が必要である。膜剥がれにより、十分な電気特性が得ることが難しいという問題も有る。一般的に強誘電体体材料の下地基板には、PtやSTO基板が主に使われている。本研究では、新しい下地材料としてDyScO3(以下ではDSOと表記)基板を採用した。DSOの格子定数が0.394nmであり、BFOの格子定数とミスマッチが小さいので、配向性の良いBFOの薄膜が得られるのではないかと考え、DSO基板を選定した。またDSO基板は透明であるという利点もある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
強誘電体や圧電材料を用いたデバイス、センサは現在様々な分野で使用されているが、主材料として使われているPb(Zr,Ti)O3には鉛が含まれており、代替えの材料が求められている。本研究では鉛が含まれていない圧電材料であるBFO薄膜を、RFスパッタリング法を用いて成膜し基礎的な物性について調べた。また、基板にはBFOと格子定数のミスマッチングが少ないDSOを用いた。DSOの格子定数はa=0.394nmであり、BFOの格子定数に非常に近い利点がある。成膜後は、400度から700度の温度範囲で結晶化の熱処理を行い、XRDで配向性を確認した。 各温度で熱処理を行ったサンプルについて、Θの範囲を22度から23.2度の範囲で詳細に分析した。BFOをDSO上に成膜したサンプルは、22.5度付近に二つのピークが出現しており、これらの二つのピークは、(110)DSOと、(001)BFOのピークであると考えられる。(001)BFOのピークは成膜直後では検出されておらず、500℃以上の熱処理によって、徐々にピークが大きくなり(001)BFOの配向性が出現したと考えられる。また、熱処理温度の上昇により、(001)BFO/(110)DSOのピーク比が大きくなっていることもわかった。BFOは主に(110)配向で形成されており、さらに700度まで熱処理温度の上昇することで、(001)配向も出現していることが分かった。次にXPSを用いて2種類の結合(FeOとFe2O3)を確認した。DSO基板とBFOの密着性や剥離に関する問題は特にみられなかった。本研究で開発したBFOは、強誘電体や圧電体の各種デバイスの材料として利用できる可能性があることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
鉛を含まない強誘電体であるBFO薄膜を、格子定数のミスマッチの少ないDSO基板上にスパッタリングを用いて成膜した。密着性には全く問題はないことを確認した。次にXRDの測定結果から、成膜後に600度の熱処理を行うことにより、BFOは(110)配向していることを確認した。また、XPSの測定から、O1sのピークを波形分離することにより、Bi2O3に起因するピークの存在は少ないことが分かった。またFeOとFe2O3の2種類の結合が確認された。Bi2O3のピークが高い場合は、化学量論的なBFOが形成されていないことを示すので、Bi2O3のピークが低い点は大きなメリットである。次に現在は常温での成膜を行っているが、温度ステージを採用することで、成膜中の温度を400度まで上昇させて実験を行い、常温での成膜時との相違について調べ。さらに、これらの薄膜についてのリーク電流等の電気特性について調べる。特に現状の薄膜の電気容量や電荷の保持特性について分析する。リーク電流については、これまでの絶縁膜に比べ大きいことが報告されているが、不純物の添加や酸素プラズマ処理なども行い、薄膜の膜質の改善を行う予定である。その後、伸びや縮み、形状記憶等の機械的特性についても調査する。すでに電気特性や機械特性を測定する計測装置は準備しており、様々な成膜条件による違いを測定できる環境にある。今後の強誘電体材料や圧電体材料として、様々なデバイス等で応用可能であることを指針を示す。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品について安価に購入できたため残額が発生したが、次年度の消耗品の購入に利用する予定である。
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