研究課題/領域番号 |
19K04480
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
間野 高明 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主幹研究員 (60391215)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 結晶成長 / 赤外線検出器 / ガリウム砒素 / インジウム砒素 / 分子線エピタキシー / 格子緩和 |
研究実績の概要 |
初年度は、本研究課題の基盤となるInAs/GaAs(111)Aの成長条件最適化に関する検討を行った。分子線エピタキシー法により様々な条件で結晶成長を行い、成長した膜の特性を多角的に評価した。 初めに、InAs膜成長温度の膜品質への影響を調べた。通常InAs成長には400℃程度の温度が用いられることが多いのに対して、InAs/GaAs(111)Aでは460℃程度の成長温度において、貫通転位密度が最も低くなることが分かった(1E+9 /cm2以下)。同条件で作製した試料は、液体窒素温度で1E+4 cm2/Vs以上という良好な移動度特性を示した。一方、格子不整合膜成長における緩和の促進と貫通転位密度低減のためにしばしば用いられる低温成長層の導入も試みたが、320℃のInAs低温成長膜を界面に導入すると、ロッキングカーブ半値幅は低減するが移動度特性は悪化することが分かった。続いて、界面にAlSbや歪超格子の導入による、貫通転位密度低減の試みを実施した。AlSbの導入はGaAs(100)上の結晶成長において貫通転位低減の報告のある手法である。GaAs(111)Aでは、ロッキングカーブ半値幅の劇的な低減が観察されたが、移動度は全く改善しなかった。歪超格子挿入に関しては、ある程度の転位密度低減と移動度向上効果が観察された。また、成長速度に対する依存性も調査したところ、これまで高いV-III比が必要とされていた(111)A上の成長であったが、(100)上の結晶成長条件とほとんど同等の低V-III比の高速成長においても、良好な膜成長が可能であることが明らかとなった。 以上のように、InAs/GaAs(111)Aの成長条件最適化を実施し、貫通転位密度の大幅な低減は得られなかったものの、安定・高速に良質な膜成長を実現可能な条件を見出すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
InAs/GaAs(111)A成長は、界面に転位が形成されて格子緩和が促進されることにより7%の格子定数差があるにもかかわらず、平坦な膜成長が容易に実現できる系であることが知られていたが、その膜特性に関する評価は十分に行われていなかった。本研究では、平面TEMによる貫通転位密度評価などを積極的に用いることにより、その基礎特性と成長条件の依存性を明らかにした。貫通転位密度が従来期待していたよりも高いことが明らかになったのは、残念な結果であるが、成長速度を大幅に上げることが可能になったことは、厚膜成長が必要不可欠な赤外線検出デバイスへの応用に向けてきわめて有効な知見である。 また、予想していなかった成果として、この材料系を利用した単純な赤外線検出器を試作したところ、転位密度があまり低くないにもかかわらず、きわめて暗電流の低い素子が実現できる可能性が明らかにした。この成果は今後の発展が期待される。 以上の観点からおおむね順調に推移していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、InAs/GaAs(111)Aの最適成長条件の探索を実施する。特にデバイス作製のための厚膜化(赤外域の吸収係数が低いため、赤外線検出器の感度向上には厚膜化が必要)に向けた取り組みを実施する。具体的には、InAs膜の残留歪やロッキングカーブ半値幅にあらわれる歪分布が厚膜化の際にどのような影響を与えるのか調査し、その問題を解決していく。また、最適化されたInAs成長条件を用いて、ATLAS法によるInGaAs成長にも取り組む。これまでの実験結果から、同材料系では高温成長の有用性が明らかとなっていることから、その方向性を中心とした成長条件の探索を進める。また、表面拡散長の短いアルミニウムを含むInAlAsを用いることも検討する。貫通転位密度の低減と移動度の向上を目的として、最適な成長条件を探索する。 また、昨年度に見出された赤外線検出器構造に関しての研究にも注力する。きわめて単純なInAs-GaAs接合構造ではあるが、動作原理に関しては不明な点も多い。成長条件による電流電圧特性や感度特性への影響を調べて動作原理を明らかにして、さらなる特性の向上に向けた構造最適化を図る。また、デバイスプロセスの最適化も実施する。現在は比較的電極の大きな素子構造を用いているため、正確な暗電流値の計測ができない。プロセスを見直し、より実用デバイスに近い検出器構造を作製する。
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