研究実績の概要 |
本研究課題は、コンビナトリアルケミストリー(CC)を用いることで効率的に新超伝導物質が発見可能なことの実証を目標としている。今年度は、前年度に発見したMg2Rh3P関連組成A-M-P (A = 希土類元素、M = Rh周辺の遷移金属)を中心に、元素の組合せを変えながら試料の作製と評価を繰り返した。その中で、(Ca, Sr or Ba)-(Pd or Pt)-Pの6種類の組合せ組成を有する6個のペレットを積み重ねて、900℃で数分間加熱した試料において、体積分率数%の約3.5Kの超伝導転移が観測された。使用した元素の組合せで生じうる化合物に超伝導体は存在しないことから、新規超伝導物質が生じたことが示唆された。(Ca, Sr or Ba)-(Pd or Pt)-Pについて、元素の組合せや合成条件を変えながら試料合成と評価を繰り返し、超伝導体積分率の大きな試料を作製した。その試料の組成分析から、(Ca,Sr):Pd:P = 1:3:1の物質で超伝導が生じている事、さらに結晶構造解析によって(Ca,Sr)Pd3Pという新規アンチペロブスカイト構造物質が超伝導の正体である事を突き止めた。興味深いことに、端組成物質CaPd3PとSrPd3P(いずれも新物質)は非超伝導体で、両者の固溶体において端組成物質とは異なる結晶構造に相転移して超伝導が生じる事が分かった。通常の物質探索では発見することは困難であり、CC法にいる物質探索のメリットが最大限に発揮された発見となった。(Ca,Sr)Pd3Pについて組成を制御した系統的な試料を合成し、結晶構造と超伝導性を示す相図を完成させた(A. Iyo et al., Inorg. Chem. 2020, 59, 12397-12403)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コンビナトリアルケミストリー(CC)を用いた新超伝導体探索を実施し、昨年度のMg2Rh3Pに引き続き、新規アンチペロブスカイト(Ca,Sr)Pd3Pを発見した。これは、本研究課題の目標であるCCを用いることで、効率的に新超伝導物質発見が可能であることを示す実例の追加となった。Mg2Rh3Pは、データベースに存在するAl2Mo3C型物質群からは予想しがたい元素の組合せであったが、今回発見した(Ca,Sr)Pd3Pも、CaPd3PとSrPd3Pが固溶体を形成することで構造相転移が引き起こされて超伝導が発現しており、通常の物質探索ではたどり着くことは困難であったと考えられる。以上の様に、CC法による物質探索により、効率的に、かつ予測困難な新規超伝導物質を発見できることを示すことができており、研究は順調に進んでいると評価できる。
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