研究実績の概要 |
本研究課題の目標は、コンビナトリアルケミストリー(CC)を用いることで効率的に新超伝導物質発見が可能なことを実証することである。令和3年度は、昨年度発見した(Ca,Sr)Pd3Pの特性を詳しく評価するとともに、類縁アンチペロブスカイトの物質探索を行った。並行して、アンチペロブスカイトとは無関係に、CCによる新超伝導物質探索を実施した。 (Ca,Sr)Pd3Pについては、CaとSrの混合によって高い超伝導転移温度(Tc)を有する相と低いTc相が生じる。そのTc差の要因を解明するために、超伝導特性と電子バンド構造を調べた。その結果、大きなTcの違いはフェルミレベルにおける状態密度を考慮したBCS理論に基づいて説明できることを示した。 (Ca,Sr)Pd3P類縁物質探索の結果、新規アンチペロブスカイト超伝導体LaPd3Pを発見した。LaPd3Pは、空間反転対称性が欠如したの新しい立方晶構造を有することを示した。LaPd3Pについて、上部臨界磁場、比熱などから超伝導諸物性を計測し、第一原理電子バンド構造計算の結果と比較した。その結果、観測されたTcはBCS理論で見積もられる値よりかなり低い値であった。この矛盾を説明するために、LaPd3Pの空間反転対称性の欠如に起因する非従来型超伝導の可能性を指摘した。 CCによる新物質探索に関して、Ba, Al, C, Pd, Pt, Ir, Ru, Co, Niを含む混合物を、高圧下で短時間加熱したところ、Tc~3Kの超伝導転移を検出した。新規超伝導物質が生じている可能性が高いと判断して、元素を一つずつ減らしながら試料合成と評価を繰り返し、最終的にBaとIrの組み合わせで超伝導が生じることを突き止めた。BaとIrの二元系に化合物は知られていなかったが、最終的に高圧下でラーベス相BaIr2が生じ、これがTc~3Kの超伝導を示すことを突き止めた。
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