研究課題/領域番号 |
19K04483
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
柴田 肇 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 招聘研究員 (70357200)
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研究分担者 |
反保 衆志 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (20392631)
今中 康貴 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 技術開発・共用部門, 副部門長 (70354371)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 物性物理学 / 半導体物性 / 電子工学 / 太陽電池 |
研究実績の概要 |
2020年度は、2019年度に引き続き、主な測定対象物質であるCZTSe(Cu2ZnSnSe4)について、薄膜の作製技術を最適化し、高品質な多結晶薄膜を作製する技術の開発を行うと共に、得られたCZTSeの電子状態を光電子分光法を用いて詳細に解明する作業を行い、移動度スペクトルを高精度で測定できる試料の開発を行った。特に、移動度スペクトルを高精度で測定できる試料として、第5元素としてGeを添加したCZGTSe(Cu2ZnSn1-xGexSe4)を0≦x≦1の組成範囲で作製し、価電子帯と伝導帯の電子状態を評価した。 電子状態を光電子分光で測定した結果、以下のことが明らかとなった。まずCZTGSeの電子親和力の大きさχpの値を測定した結果、0≦x≦1の範囲に対して4.56 eV≦χp≦4.2 eVの範囲で変化することが判明した。この結果は、0≦x≦1の範囲でCZTGSeは太陽電池用材料として非常に適した電子状態を有していることを示唆している。また、光電子分光と逆光電子分光によりCZTGSeの価電子帯と伝導帯の状態密度を測定した結果、CZTGSeの伝導帯の状態密度はバンド端の付近に裾を持ち、その裾の大きさはxの値が増大するに従って増大することが明らかとなった。その一方で、価電子帯の状態密度には、そのような裾は確認されなかった。その伝導帯の裾の起源の候補としては、Cu2(Sn,Ge)Se3や(Sn, Ge)Seなどの化合物の析出が考えられる。また本計画で必要となる強磁場を使った磁気輸送計測については、昨年度に引き続き測定装置の準備を行い、研究は順調に進展している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
移動度スペクトルを高精度で測定するためには、高移動度の高品質な測定試料を準備することが必要である。そのため2019~2020年度は、主な測定対象物質であるCZTSe(Cu2ZnSnSe4)について、薄膜の作製技術を最適化し、高品質な多結晶薄膜を作製する技術の開発を行った。まず2019年度には、CZTSe薄膜の結晶品質は、成膜中におけるSe蒸気の供給量に強く依存することを見出し、最適なSe蒸気供給量を発見して高品質なCZTSe薄膜を得ることに成功した。また、2020年度には、移動度スペクトルを高精度で測定できる試料として、第5元素としてGeを添加したCZGTSe(Cu2ZnSn1-xGexSe4)を0≦x≦1の組成範囲で作製し、価電子帯と伝導帯の電子状態を評価した。まずCZTGSeの電子親和力の大きさχpの値を測定した結果、0≦x≦1の範囲に対して4.56 eV≦χp≦4.2 eVの範囲で変化することが判明した。また、光電子分光と逆光電子分光によりCZTGSeの価電子帯と伝導帯の状態密度を測定した結果、CZTGSeの伝導帯の状態密度はバンド端の付近に裾を持ち、その裾の大きさはxの値が増大するに従って増大することが明らかとなった。その一方で、価電子帯の状態密度には、そのような裾は確認されなかった。また本計画で必要となる強磁場を使った磁気輸送計測については、昨年度に引き続き測定装置の準備を行い、研究は順調に進展している。 以上の結果として、2019~2020年度は移動度スペクトルの研究を行うための基礎環境が整ったが、昨年度に引き続き、CZTSe薄膜の高品質化および移動度スペクトルの計算方法の検討に予想以上の時間を費やすこととなり、実際のデータの取得作業および解析作業は、やや遅延している。
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今後の研究の推進方策 |
2019~2020年度に開発した成膜技術を利用してCZTSe(Cu2ZnSnSe4)薄膜の高品質薄膜を作製し、移動度スペクトルの測定を行って少数キャリア移動度の決定を行う予定である。また、少数キャリア移動度の測定に用いた薄膜と同一の薄膜を用いて、時間分解フォトルミネッセンス測定等により少数キャリア寿命を求めると共に、太陽電池を作製して少数キャリア拡散長を求める。それらのデータを組み合わせることにより、移動度スペクトルの概算値を見積もることが可能になるため、得られた結果を移動度スペクトルの方法で得られた結果と比較検討し、移動度スペクトルの方法によって得られた結果の妥当性を評価する。また少数キャリア移動度とデバイス性能との関係を明らかにし、高性能な化合物薄膜太陽電池を得るための開発指針を考察する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、2019年度に引き続き、主な測定対象物質であるCZTSe(Cu2ZnSnSe4)およびCZGTSe(Cu2ZnSn1-xGexSe4)について薄膜の作製技術を最適化し、高品質な多結晶薄膜を作製する技術の開発を行った。研究は、ほぼ予定通りに進捗し、予算もほぼ予定通りに消化することが出来たが、研究の一部に予想以上の時間を費やすこととなり、予定していた支出のごく一部(約7万円)が行われない結果となった。
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