研究課題/領域番号 |
19K04489
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
西 竜治 大阪大学, 超高圧電子顕微鏡センター, 准教授 (40243183)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 微分代数 / 色収差 / 対称線電流 / SIMD / 並列化 |
研究実績の概要 |
電子顕微鏡では高価格帯の(走査)透過電子顕微鏡(STEM, TEM)ではレンズの球面収差を補正し分解能を向上させる収差補正器が実用化され、搭載が始まっている。しかし、走査電子顕微鏡(SEM)では収差補正器は実用化されていない。これは単純にコストの問題だけでなく、走査電子顕微鏡では低加速電圧ゆえにレンズの球面収差とともに色収差が大きいで、色収差も補正しないと収差補正器としての性能が得られない。そこで、この研究では走査電子顕微鏡に搭載できるようなシンプルな構造の色収差+球面収差補正器を目指している。 これまで実用化されてきた収差補正器では2組以上の電磁多極子を組み合わせたものであり、高い加工精度が必要で、その複雑さゆえ高コストになっている。本研究では、磁極を持たない対称線電流というシンプル電子光学要素を用いて電磁多極子を置き換え、低加速の走査電子顕微鏡に使える球面収差・色収差補正器の構造をシミュレーションで検討している。 シミュレーションにあたっては新たな解析手法である微分代数法による解析プログラムの高速化を進めている。電子光学系の収差解析を精度良くまた見通しよく行うために対称線電流方式に対応した微分代数法による収差解析シミュレーションソフトウェアを開発している。収差補正光学系に与える電流や電圧の条件、位置や寸法といった条件の最適化を図るためには多くの条件を変えながら収差係数を算出しフィードバックしながら最適化を図る必要があり、計算時間が問題となっている。これに対して、微分代数法の実装アルゴリズムを改良し、また計算のSIMD命令による並列化を取り入れ、約1/2に計算時間の短縮を実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
微分代数法の並列化は難航していて、CPUのコア数を生かした並列化を試みているが計算の粒度が小さいためコアの割り振りに要する計算コストが大きく、CPUコア並列化への効果が上がっていない。微分代数演算の計算順序や内部データ構造の工夫を行ってきたがまだ十分ではない。そのため、収差補正器の最適化の追い込みに限界がある。
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今後の研究の推進方策 |
より複雑な収差補正電子光学系の収差補正器の最適化を図る上では計算の高速化が必要で、現状では十分な最適化に至っていない。今後は計算モデルの見直しと、計算ループ内の計算粒度の調整を進め、CPUコア並列化が有効に働くアルゴリズムを見出す。さらに、実装を目指して、有限要素で電磁界計算ができるシミュレータを導入し、実形状での微分代数法の適用方法も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
CPUコアに渡る並列化アルゴリズムが十分な効果を上げていないため、多コアCPU搭載のPCの導入を遅らせ、より費用対効果の高いPCの導入を計画している。 また、実機での電磁界シミュレーションのための有限要素法のソフトウェアの導入も検討している。
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