走査透過電子顕微(STEM)や透過電子顕微鏡(TEM)ではレンズの球面収差を補正し分解能を向上させる収差補正器が商用的に搭載が行われている。しかし、走査電子顕微鏡(SEM)では収差補正器は実用化には至っていない。これはSEMではSTEMより通常加速電圧が1桁以上低い加速電圧で動作を行うために球面収差のみならず色収差の影響が大きいからである。本研究ではSEMにて実用的に用いることができるシンプルな構造の色・球面収差補正器を目指す。 現在の収差補正器は磁気多極子を2段以上とリレーレンズを組み合わせたものである。磁気多極子は磁極を使うことで磁束を強められ、一定のシールド効果もある反面、磁性体の不均一性やヒステリシスなどのデメリットもある。本研究では磁性体を持たない対称線電流(SYLC)を用いて電流により磁界を、電圧印加により電位を発生させることで電磁多極子相当の機能をもたせ、低加速電圧対応の球面収差・色収差補正器の性能をシミュレーションにより検討を行った。 収差解析は微分代数法を使って収差係数の計算を行うアルゴリズムの改良を行った。しかし、アルゴリズムによる速度向上は目標値までは届かないまでも10~20%改善した。色球面収差補正条件の最適化を行いSYLC収差補正器の条件を見いだした。また、大角度偏向系での収差補正器の計算用に、光軸を曲げた系への微分代数プログラムの改良を行い扇形プリズムにおいて2次収差まで計算可能とした。
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