研究実績の概要 |
2019年度は、ノーマリーオフ動作可能な縦型パワーデバイスの実現にとって極めて重要なp型GaNへのArプラズマイオンの物理的衝撃に焦点を絞り、直流グロー放電によりArイオンを照射したMgドープp型GaN(GaN:Mg)膜にショットキーダイオードを作製し、深いエネルギー準位を有するMgアクセプターが十分に追随可能な周波数1kHzで静電容量-電圧(C-V)測定と光容量過渡分光(SSPC)測定を行い、Mgの有効アクセプター濃度|Na-Nd|の膜厚深さ方向分布と欠陥準位のエネルギー状態密度分布を評価し、Arイオン照射により導入される電気的ダメージの生成挙動を定量的に検討した。 得られたC-V特性から、Arイオン照射によりMgの有効アクセプター濃度が膜表面では大きく減少し、膜内部では大きく増加する傾向を示した。これより、Arイオン照射時間が増加する程、Mgアクセプターが内方拡散していることが分かった。また、SSPC特性のArイオン照射時間依存性から、Arイオン照射により価電子帯上~2.0eV, ~3.2eV付近に存在する2つの欠陥準位が顕在化することが分かった。GaNでは物理的なイオン衝撃により多量のGa空孔とN空孔が生成し、それぞれ内方拡散,外方拡散する傾向を有することを考慮すると、Ga空孔は内方拡散し残存水素と水素化Ga空孔欠陥を形成していると考えられる。このGa空孔の内方拡散に伴いMgアクセプターも追随・内方拡散していると推定される。同時に、ドナー準位として振る舞い得るN空孔は外方拡散することで、膜表面ではキャリア補償によりMgの有効アクセプター濃度が大きく減少していると考えられる。したがって、価電子帯上~2.0eV, ~3.2eV付近に存在する2つの特徴的な欠陥準位はArプラズマイオン照射により導入されたGa空孔,N空孔関連の欠陥準位であると推測される。
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