まず、音響放射力印可のためのMEMS超音波アクチュエータの製作および評価を行った。周囲が固定されたシリコン円板下部に狭い隙間を介し電極を配置した静電型の超音波アクチュエータを基本構造とした。強力な音圧発生のための最適構造を、円板の板厚、直径、および音響放射効率を用い推定した。この結果をもとに、直径1.2 mm、厚み57 um、電極間ギャップ1 umのデバイスを設計した。約50 Vの電圧振幅印可により、約600 kHzにおいて17.6 nmの振動振幅を得た。しかしながら、本構造のアクチュエータでは光MEMSの駆動をするに十分な音圧を得ることが難しかったため、音響放射力駆動型の光MEMSデバイスの実験及び評価のため、より強力な音圧を発生可能な圧電駆動型の超音波アクチュエータを利用した。本評価では、約2 umの薄い単結晶シリコン薄膜で製作した2 mm角のミラーがねじれバネで支持された構造を用いた。音波の周波数からMEMSミラーの共振周波数を大きく離し、影響が少なくなるように設計を行った。結果として、準静的に数十度の回転駆動を得た。 音響放射力により光MEMSを駆動する方式は現在までに発表されておらずその有効性は明らかでなかった。一般に、駆動部には静電アクチュエータを除き、電気配線や圧電膜といった構造の製作が必要であるが、本方式ではそのような構造を組込む必要が無く、駆動部を簡便にすることが可能である。また、静電駆動型と異なり斥力を加えることができる。本研究期間を通じ、音響放射力を用いて光MEMSを駆動させることに成功した。音響放射力は音波を物体に照射することで発生する直流の力であるため、本質的に音波の交流成分による微振動は避けられないものの、構造の工夫により、光スキャナとして利用できることを実証した。これらの結果は、光MEMSデバイスの更なる発展に有用である。
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