研究課題/領域番号 |
19K04506
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
大平 昌敬 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (60463709)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マイクロ波フィルタ / ニューラルネットワーク / 自動設計 |
研究実績の概要 |
ニューラルネットワーク(NN:Neural Network)を用いたマイクロ波フィルタの自動設計技術を確立すべく、2020年度は、主に深層Qネットワーク(DQN:Deep Q-Network)を用いたバンドパスフィルタ(BPF:Bandpass Filter)の自動設計ならびに設計技術のモデリングの研究開発に注力し、以下の研究実績を上げた。 (1) DQNを用いたBPFの自動設計技術の開発:従来の最適化手法とは違い、強化学習を用いればBPFの設計過程をDQNでモデル化できると期待される。しかし、マイクロストリップBPFのように不要な結合が発生しやすいBPFでは、設計過程をモデル化するには強化学習に膨大な時間を要する。そこで、BPFの周波数特性の計算を高速化するため、電磁界シミュレータの代理モデルをNNで構築し、それを強化学習に組み込む手法を提案した。これにより強化学習の劇的な高速化に成功した。一例として、5段マイクロストリップBPFの自動設計のためのDQNを構築しし、そのBPFの自動設計を実施した。その結果、異なる初期値の組をDQNに入力したとしても、0.5秒以内に設計仕様を満たす構造パラメータを得ることができた。このことから、提案手法がBPFの自動設計に有効であることが実証できた。 (2) 逆畳み込みネットワークによるBPFの自動形状生成技術の開発:(I)の自動設計手法以外に新たなBPF自動設計技術も進めた。具体的には、設計仕様を入力すれば自動的に最適な形状パターンを画像として出力するNNの構築について検討した。そのNNには逆畳み込みネットワークを用い、一例として3段マイクロストリップBPFの設計に適用した。その結果、BPFの形状パターンの自動生成に成功し、今後のBPF形状の自動生成の見通しを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の最終目標であるマイクロ波フィルタの完全自動設計技術の構築に向けて、2年目の課題として、マイクロ波フィルタ自動設計用ニューラルネットワーク(NN:Neural Network)の構築・自動設計の検証ならびにマイクロ波フィルタの結合行列の抽出技術の高精度化を挙げた。進捗状況は以下のとおりである。 (1) マイクロ波フィルタ自動設計用NNの構築・自動設計の検証:深層Qネットワーク(DQN:Deep Q-Network)を用いたマイクロストリップBPF(Bandpass Filter)の自動設計ならびに設計プロセスのモデリングを目的に、教師あり学習ならびに強化学習によってBPF自動設計向けのNN及びDQNを提案・構築した。その提案法によって劇的な高速化と自動設計に成功し、その研究成果はすでに電子情報通信学会マイクロ波研究会や総合大会で発表している。また今後、国際会議においても発表予定である。以上から研究は当初の計画通り順調に進んでいると言える。 (2) マイクロ波フィルタの結合行列の抽出技術の高精度化:従来の抽出技術の課題であった入出力線路特性のディエンベディング手法において、昨年度よりも高精度化を図るべくフィッティング次数の自動推定法を開発した。よって、本課題についても当初の計画通り順調に進んでいるものと考える。 このように研究は計画通りに遂行され、2020年度は概ね順調に研究は進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度のマイクロ波フィルタの自動設計技術の開発が順調に進んでいることを受けて、2021年度は2020年度の提案手法の高精度化・汎用性の検討を研究課題として掲げる。特に、2021年度は以下の2点を推進方策とする。 (1) 深層Qネットワーク(DQN:Deep Q-Network)を用いたマイクロ波フィルタの自動設計技術の開発:2020年度はDQNを用いた強化学習によってマイクロストリップBPFの自動設計ならびに設計プロセスのモデリングが可能であることがわかった。しかし、現時点ではまだ一つの設計仕様についてのみの検証であり、BPF(Bandpass Filter)の中心周波数や周波数帯域幅を変更した場合も一つのDQNで取り扱えるのかまでは未検証である。2021年度は、複数の設計仕様も扱えるDQNの構築を目指す。 (2) 逆畳み込みネットワークを用いたマイクロ波フィルタの自動形状生成技術の開発:2020年度はマイクロストリップBPFの自動形状生成において逆畳み込みネットワークが適用可能である可能性を示した。しかし、完全に設計仕様を満たすBPFの形状を出力するには至っていない。そこで2021年度はその問題点を解決するため逆畳み込みネットワークの高精度化について検討を実施する。 以上の技術開発を通してマイクロ波フィルタの完全自動設計技術の確立を成し遂げる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は5万円未満であり、2020年度は概ね当初計画通り予算を執行している。2021年度も本研究課題の研究を一層促進するため、下記に予算使用計画を示す。 (1) 設備備品費・消耗品費(計90万円): NNの構築に不可欠な大量のデータセットを短時間で生成するため複数台の高速ワークステーションを追加購入し、さらに3次元電磁界シミュレータの年間ライセンスも購入する。また、回路基板試作用の部材等を購入し、設計したマイクロストリップBPFについて実験的検証も行う。(2) 成果発表のため国内旅費(計10万円):本研究開発で得られた研究成果は積極的に学会で発表し、広く関係者に公表する。具体的には、電子情報通信学会ソサイエティ大会・総合大会、同会マイクロ波研究会の発表の旅費を計上する。(3) その他(計30万円):研究成果は学会発表のみならず、海外の査読付き学術雑誌にも投稿予定である。そのための学術雑誌論文掲載費や国内外の学会発表投稿費を計上する。また、本研究開発の研究補助に係る謝金も計上する。本予算が滞りなく執行できれば、本研究開発は順調に進むものと考える。
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備考 |
埼玉大学 馬・大平・三澤研究室 http://sirius.reso.ees.saitama-u.ac.jp/
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