今日の外科手術では,従来の開腹手術のみならず,腹腔鏡手術や内視鏡的手術,さらには,手術ロボットによる高精細手術(以下,ロボット手術)といった低侵襲な手技が広く行われ,患者のQOL(quality of life:生活の質)が飛躍的に向上している。これらの手術では,生体組織の切開や止血を同時に行うことができるエネルギーデバイスが多用されており,この代表格が電気メスである。ところが,電気メスによる処置時には大量の煙が生じ,低侵襲手術の遂行を妨害することがある。また,これに加えて,安全性の面でも原理的に解決し難い問題がある。そこで本研究では,使用時に煙を発生させずクリーンな処置を実現でき,か つ,安全性が高いマイクロ波による外科処置デバイスに着目し,ロボット手術に対応する微細なマイクロ波エネルギーデバイスを開発することを目的とした。 マイクロ波デバイスとは,すなわち,マイクロ波アンテナであるので,生体組織に対して微小な加熱領域を発生可能なアンテナ素子を探索してきた。前年度までに,2重の微小ループ状アンテナを用いることで,生体組織を局所的に効率よく加熱可能であることが明らかになった。しかしながらこの構造では,素子にマイクロ波エネルギーを供給する給電線路に不要な高周波電流が流れることで,この給電線路沿いの生体組織も加熱される可能性があることが明らかになった。そこで本研究の最終年度は,この給電線路に沿った位置での加熱を低減させる構造を検証した。その結果,2重の微小ループ状アンテナの構造もさらに改良し,適切なサイズのバランを装備することで,給電線路に沿った不要な過加熱を低減することができた。
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