研究課題/領域番号 |
19K04510
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
古屋 岳 福井大学, 遠赤外領域開発研究センター, 助教 (20401953)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ガス分子 / 自由誘導減衰 / 高分解能分光 / 広帯域分光 |
研究実績の概要 |
昨年度は自由誘導減衰(FID)の強度を高める目的で2種類の実験を中心に行った.1つ目は分子との相互作用を行うガスセルに折り返し構造を付けることにより相互作用長を増加させることによる信号増強.2つ目は励起パルスに高強度テラヘルツパルス発生手法である波面傾斜法を用いることによるFID信号増加である. 相互作用長の増加に関しては一昨年度の実験でセル断面積を小さくすることによる効率向上を確認していることから,昨年度はX-band導波管をセルに採用し,光路長を長くするためのセルの折り返し部分に使用するマイターベンド構造を市販されている導波管のベンド構造を模したものと,光学的な反射において有利だと考えられるベンド構造の2種類試作し,それぞれの透過特性をFDTDによるシミュレーションおよびCW光源を用いて測定を行った.その結果,導波管をオーバーカップリングで使用する場合は光学的な反射特性が有利だと考えられる構造が最適であることを確認した.また,試作した折り返し付の導波管セルにアセトニトリルガスを導入し,テラヘル時間領域分光法を用いてFIDの計測を行ったところ,FID強度が短光路セルに比べ2-3倍になることを確認した.本結果を日本物理学会北陸支部会にて方向くした.また,高強度テラヘルツパルスによる. これまでの実験において通常の時間領域分光法で使用している光伝導アンテナからのテラヘルツ放射を用いた場合,データの積算無しでFIDを効率よく取得することが困難であることが確認されたため,高強度テラヘルツパルスが発生可能な波面傾斜法を励起光源に用いFID信号強度の向上を試みた.実験の結果,波面傾斜法により励起パルスの電場強度をおおよそ2桁(出力では4桁)の向上を実現し,時間領域分光法において,FID信号に関してもこれまでに比べ2桁の信号強度の増加を確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
一昨年度,昨年度の実験予定として挙げた波面傾斜法を用いた高強度テラヘルツパルスによるガス励起効率の向上についてはこれまであった波面傾斜法の光学系を新たにガス分光に使用できるよう設計・構築し,実験を行った.時間領域分光を行った結果,2桁の信号強度の向上を確認した.しかし,波面傾斜法に使用する高出力レーザーの不調により実験開始が12月までずれ込み,ミキサーによる信号検出を試みるには至らなかった. 一方で,分子との相互作用長を長く取るための超ころガスセルの試作においてはセルの折り返し部分の構造についてシミュレーションおよび実験において最適な構造を探索するとともに,試作したセルによりFIDの強度がおおよぼ2-3倍に増加することが確認され,長光路セルによるガス分子からのFID信号増強に関しては一定の知見を得ることができた. 一昨年度行ったミキサーを用いた実験の継続として,昨年度も引き続き高強度テラヘルツ光源であるジャイロトロンを励起光源として使用し,周波数ミキシングに使用するローカル信号源の違いによるバックグラウンドノイズの変化について詳細な実験を行う予定であったが,本実験ではジャイロトロンのガス分光部分の担当以外にジャイロトロンのオペレーション等に多人数が必要であるが,本年度はコロナウィルスの影響で多人数が狭い実験室に集まる実験を行うことが難しかったため,これらの実験については進展しなかった.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進の方針として,昨年度2桁の信号強度改善を確認した波面傾斜法による高強度テラヘルツパルスを励起光源としたガス分子の励起について,高濃度のガスを使用した際のFID信号と励起光強度が逆転する現象について,ガスの濃度に対し,信号の変化を詳細に調べる.また,基本波またはサブハーモニックのミキサーを用い,FID信号を取得することにより高分解能の信号取得を試みる.その際,ガス分子からのFID信号強度が十分でない場合には,昨年度の研究において最適化を行い,信号強度の増加を確認したX-band導波管を用いた長光路セルを導入することによる信号改善を行う. また,昨年度の課題でもあったジャイロトロンを用いた信号検出におけるミキシングのローカル信号源の違いによるバックグラウンドノイズの差について本年度も引き続き実験を行い,原因を明らかにしていくとともに,ノイズ低減が実現した際にはガス分子からのFID計測を試みる.また,昨年度試作した長光路セルを導入することにより,信号の改善も期待できることから導入に向けた光学系の最適化も並行して行い,高効率な信号取得に努めることで高分解能分光の可能性を探る.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度はコロナウィルスの影響により,国際会議などへの参加を見送った.また,実験においては,感染防止の観点から多人数による実験実施が困難であったため,ジャイロトロンを用いたFID測定の実験が行えないなど当初の予定通りに実験を行うことができなかった.また,当初予算ではサブハーモニックミキサーを購入予定であったが,昨年度に引き続き他研究室から短期的な貸与を受けることができたこと,昨年度は長期間にわたる本格的な実験が困難であったことから,ミキサーの購入を見送ったことにより当初計画と差異が生じた.来年度はミキサーの購入および旅費により予算を消化予定である.
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