本課題では,グリーン溶媒を用いた環境調和型プリンテッドエレクトロニクスを構築することを目指している.これまでに我々が開発した技術である「グリーン溶媒を用いた高性能ポリマーブレンドトランジスタの作製」および「有機エピタキシーによる低分子半導体結晶のπスタック方向制御」を融合し,ポリマーの化学的性質を利用してIoT素子の作製に向けた革新的な有機半導体技術を開拓することを目的としている. 2021年度の研究実績として,(1) 有機半導体への不純物ドーピング,(2) 静電スプレーによる有機半導体のエッチング,(3) 低分子/ポリマーブレンドの逆型相分離構造の形成,を挙げる. (1)に関して,高度に発達しているシリコン半導体デバイス技術の不純物ドーピングによるキャリア生成(キャリアドーピング)にならい,有機半導体デバイスへの電荷輸送ドーピングによる低抵抗化を実現した.(2)に関して,シリコンなどの無機半導体では反応性イオンやプラズマを用いた真空中での異方性エッチングが確立しているが、大気中のウェットプロセスである静電スプレー法を用いて有機半導体の選択的な異方性エッチングプロセスを確立した.この成果は,おもに膜形成が研究されているプリンテッドエレクトロニクスのさらなる発展に寄与することが期待される.(3)に関して、一般的な垂直相分離では表面エネルギー差で上層に低分子,下層にポリマーが析出するが,低分子をテンプレートに用いることで通常とは逆構造の垂直相分離(下層に低分子,上層にポリマー)が形成されることがわかった.この結果は熱力学や結晶工学などの学術的内容として非常に興味深く,今後,X線回折や電子顕微鏡による評価を行い,低分子結晶のエピタキシャル成長が要因であるか明らかにする.また工学的には,デバイス表面をポリマーでパッシベーションする簡便かつ斬新なプロセスを開発できる.
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