研究課題/領域番号 |
19K04514
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
下村 哲 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 教授 (30201560)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 温度急冷ステージの設計 / 基板ホルダー温度分布 / 基板ホルダー冷却速度 / GaAsBi/GaAs 量子井戸 / (221)B GaAs 基板 |
研究実績の概要 |
本研究の三つの目的、①本研究の主眼であるGaAsBi面発光レーザーの実現、②GaAsBi層のBi組成の増加による長波長化、③三つ目は偏光特性の解明である。1年目は、①、②のため【温度センサー付き基板温度急冷ステージ】の設計・開発を行い、③のため、GaAsBi/GaAs量子井戸の偏光特性の基板面指数依存性を調べた。 これまでの我々のグループが開発した2基板温度成長法ではGaAsBiを基板温度350℃で成長することでBi濃度6%の高品質GaAsBi層を得、次に基板温度を550℃に上げてGaAsBi成長中に表面に蓄積したBiを蒸発させ、Biが検知されない高品質のGaAs層を成長してきた。その結果、急峻なBi組成プロファイルをもつGaAsBi/GaAs量子井戸の作製が可能になり発光波長1230 nmのLED室温発光が可能になった。しかしながら、基板温度550℃と基板温度350℃の温度差200℃は非常に大きく、真空中で熱容量の大きな基板マニピュレーターを含めて、温度を下げるのに30分以上の時間を要している。この時間を短縮するため、【温度センサー付き基板温度急冷ステージ】の設計を行った。真空中で行うため、熱伝導は接触する箇所、接触面積、接触荷重で決まる。基板ホルダーの全面が一様に温度が下がるような【温度センサー付き基板温度急冷ステージ】となるため、基板ホルダー上の温度の面内分布を確かめるための温度センサーを4か所配置することとした。一つは急冷ステージの温度を測定し、他の三つは基板ホルダーの温度を3等配した別々の場所で測定する。これにより基板温度の均一性と冷却速度を測定する。1年目で設計と温度モニターの購入を完了した。 一方偏光特性の解明では、(100)基板上でこれまでで最も大きな偏光度P=0.31が得られこれまでの偏光度P=0.19を大きく上まわった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【温度センサー付き基板温度急冷ステージ】の導入では、必要なシステムの購入を予定通り終えることができた。当初の計画では、基板ホルダーの中心の1点を測定するだけであったが、基板ホルダーと【冷却ステージ】の熱接触の仕方によっては片側から冷えるなど冷え方に偏りが生じ、温度分布ができる可能性がある。これをきちんとモニターするために、基板ホルダーの温度測定箇所を3点に増やし、均一に冷えるかどうか判定できるように整えた。大気中での予備実験、分子線エピタキシー装置に装着と予備実験と改良を繰り返し、GaAsBiの成長へ進む予定である。 (100)GaAs基板上のGaAsBi/GaAs量子井戸が偏光機構の解明では大きな進展があった。(100) GaAsBi量子井戸の偏光度Pは、本研究発足時の値P = 0.19 からP = 0.31 に増加させることができた。平行方向に偏光したホトルミネッセンス(PL)の強度I//と垂直方向の強度I⊥の比I// / I⊥で表すとI// / I⊥= 1.47から 1.90まで増加したことになる。この著しい増加は、GaAsBi成長時のBiの供給量を一定に保ち、As4圧を1.0×10-5 mbarから2.0 ×10-5 mbarに増加すると生じた。この時Biの組成は3.8%から4.3%に増加し、試料温度13 Kにおいて発光波長は 1040 nmから1120 nmに長波長化し、1090 nm~1170 nmで偏光度P = 0.31と一定である。また試料温度を150 Kまで上げても偏光度はP = 0.31を保っていた。As4を過剰に供給した方が、表面の禁句サイトが増えBiがペアリングして取り込まれやすくなった可能性があり成長機構の解明にもつながる発見である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、光学的品質と偏光特性を維持しつつBi組成の増加を図る。温度センサー付き基板温度急冷ステージで基板温度冷却時間を短縮し成長中断による品質の劣化を抑制する。基板温度急冷ステージの大気中での予備実験、成長装置に取り付けて真空下での予備実験を経て、改良を加える必要があれば加える。変調法はGaAsBi成長中に基板温度の10~20の温度の上げ下げを繰り返し下げてBi組成の上昇を図り、品質の高いGaAsBiを成長することを狙う。 偏光が生じる原因として組成変調とBiの近接導入による二つの原因が考えられ、両面から原因を特定することが当初の目的である。組成変調についてはSTEM-EDSを用いた高空間分解Bi組成観察(外部委託)の結果を解析し、(100)断面の観察の結果では一様で組成変調は見られない。Bi-Ga-Bi 2原子分子、Bi-Ga-Bi-Ga-Bi3原子分子のように近接してBiが導入されそれが著しく強い偏光特性に現れている可能性があり、強結合近似による偏光特性の理論的な解明を行う。 光通信帯O-bandのGaAs1-xBix量子井戸面発光レーザを試作も当初の目的である。現在、急冷ステージの装着予備実験のため、成長装置は成長できない状態にあるが、1.2 μm帯、1.25 μm帯、1.3μm帯の順に波長を伸ばしていて量子井戸面発光レーザの試作をおこなう。非常に早く1.3μm帯の面発光レーザーを達成できる可能性もある。GaAsBiを活性層に用いた面発光レーザーの発振の例はなく、成功すれば重要なマイルストーンとなる。初年度1.2 μm帯で発振に至らないときは1.1 μm帯に波長を短くして試作する。
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