科学研究費採択テーマである「電子ビームリソグラフィにおける無帯電露光条件の体系化」において、研究計画調書に示したように現有の走査電子顕微鏡内に独自に開発した静電気力顕微鏡を導入し、電子ビーム露光を受けた直後のレジスト表面電位を測定した。 令和2年度は加速電圧30kVの電子ビーム露光において、レジスト表面の帯電電位が露光量によって2度ゼロクロスすることを見出した。令和3年度にはレジストを露光する電子ビームの加速電圧を0.5kV~30kVまで変化させ表面電位の露光量による変化を測定し体系的な無帯電露光条件を探索した。その結果加速電圧0.6kVにおいて露光量が10μC/cm2以上であれば電子ビームをどれだけ大量に露光してもビーム直下:0V、露光パターン端:+0.4V未満、周辺数mm広範囲:0Vという、試料表面のどこにも帯電電位がなくなることを見出した。この条件は走査電子顕微鏡で3時間以上絶縁物表面の同じ場所を千倍で観察することに相当し衝撃的な結果といえる。 負電荷をもつ電子の照射により絶縁体であるレジストが正に帯電する現象について妥当な説明ができるモデルは今までなかったが、我々は様々な条件に対する実験の結果に基づいてこれらの現象を合理的に説明できるモデルを提唱し、様々な条件に対する実験により、電子蓄積による負帯電とのバランスするときの無帯電条件を体系化することができ、内容を論文発表や国内外の学会にて発表し支持を受けた。具体的なモデルとしては、低露光量では表面からの二次電子放出により正帯電し、露光量の増加と共にレジスト内で電子蓄積が進み、ある露光量でゼロクロスする。それ以降の露光量ではレジスト膜内での電子ビーム誘起導電が増強されることで膜内の電子が徐々にレジスト裏面と表面から流出して負電荷が減少する。この条件が達成されると、負帯電も正帯電もすることもない無帯電となることが分かった。
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