研究課題/領域番号 |
19K04527
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
大森 達也 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (60302527)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 弾性波 / 弾性波動可視化装置 / 高周波デバイス |
研究実績の概要 |
弾性振動可視化装置の自動化・高性能化に向けて、研究計画に則り2020年度は、(1)可視化装置を制御し、得られた結果を処理する統合ソフトウェアの開発ならびに、(2) 2019年度に引き続き信号検出系の見直しによる高ダイナミックレンジ化を行った。またこれらに加えて、(3)分数調波を含む高周波弾性表面波素子における非線形性応答検出に向けた検討を行った。 (1)については、2019年度に大幅改良を行った可視化システムを効果的に運用するためのユーザーフレンドリーなGUIプログラムを新規に開発し、現在開発途上ではあるものの、ほぼすべての機能を実装するにいたっている。この成果の一部は査読付き論文として発行されている。 (2)については、2019年度の成果をさらに改良することで、わずかに残っていた基準発振器からの漏れ信号を抑え、さらに、異なる周波数掃引において位相差の推移を捉えることができる検波系の新たな構築に着手した。この検討の成果の一部は、後述する非線形応答の検出系にも応用されている。この成果の一部は査読付き論文として発行された。 (3)については、(1)(2)で開発した可視化システムを利用して、研究当初からの目的の一つであった、高周波弾性表面波素子が発生する高次非線形応答の複素振幅測定に挑戦している。また2020年度は、これまで不明な点が多かった分数調波による非線形応答についても着目し、これらの発生メカニズム解明につながる観測を試みた。これまでのところ、分数調波による非線形性を可視化装置で明確に捉えることはできていないが、再現性良く非線形応答を発生させる方法や発生メカニズムの理論的な裏付けについて一定の成果を得た。この成果の一部は、国内の研究会で発表された他、2021年度開催予定の国際学会で発表する事を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本提案研究2年目にあたって、完成度の高い弾性振動可視化装置の構築を目指して、2019年度の研究成果に加えて、主にこれらを活かすソフトウェアの開発を行った。まず、ステージコントローラの変更に伴い、これの能力を最大限に引き出すための制御ソフトウェアを新規に作成した。また2020年度は高速かつ十分に実用となるオートフォーカス機能も統合することに成功した。これは、2021年度に計画している周波数掃引など長時間自動測定をする上で必須となる機能であり、自動測定実現に向けた大きな障害が克服されたと考えている。なお、2020年度当初計画では、さらなるハードウェアの改善を行うことを計画していたが、新型コロナウィルス感染症の感染防止措置により、年度前半は実機を用いての研究が制限されたため、ソフトウェア開発を先行させた。 次に、絶対振幅測定については2019年度までの原理実験に加えて、専用に設計・試作した専用回路を設計・試作した。これにより、Michelson干渉計とSagnac干渉計併用する提案方法を実用に耐えるレベルにまで改善した。2021年度はこれを利用して、いくつかのデモンストレーションを行う予定である。また、信号検出系については2019年度で考案したシステムで、周波数を変更したときの相関が取れない欠点を2020年度の検討で参照パスを用いた方法に回避する手法を考案し、基礎実験の結果、有効性を確認した。2021年度でこれをじ年度の検討で実装を行う事を予定している。 最後に、弾性表面波素子の非線形性応答について、特に分数調波について、再現性良く非線形応答を発生させる方法を考案し、実験により提案手法が有効であることを示した。ただし、この非線形応答を可視化することについては未達であり、2021年度はこの点について検討したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は研究最終年度として、これまでに構築した実用性の高い弾性振動可視化システムのハードウェアおよびソフトウェアの完成を優先する。当初からの目的であった、専門家が特別な訓練をしなくても容易に高感度に高空間分解能な複素弾性振動振幅の分布を測定できるシステムを構築する予定である。これまでの基本的な検討により、全体構成や基本的な制御プログラムは、ほぼ完成しているため、最終的なソフトウェアの調整とハードウェアの固定化を行う予定である。特に、複素振幅を検出する上での重要な役割を担うロックイン・アンプについて、保守性の良い装置(エヌエフ回路ブロックLI5660を予定)への置き換えを予定している。また、2020年度の検討により低位相雑音の高周波信号発生機の追加が必要となることが判明したため、研究当初の計画にはなかったが、比較的低価格かつ必要条件を満足しうる低位相雑音信号発生機(Rohde & Schwarz SMB100Aを軸に検討中)を用意する予定である。また、高周波弾性表面波素子が発生する非線形応答検出に関して、引き続き理論的検討および実験を行い、非線形応答発生メカニズムの解明に寄与したいと考えている。 なお、本研究提案により得られた成果を国内外で公表することを予定しており、昨年度末に引き続き、論文発表を行う予定である。特に、分数調波の観察については2021年9月にオンラインで開催予定のUltrasonics Symposiumで発表すべく原稿を投稿している。また、前年度に引き続き、本可視化システムによる絶対振幅測定の自動化に関して、超音波シンポジウムもしくは、相当する国際学会において公表することを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウィルス感染症の感染防止のため、年度前半に実機を用いた研究が困難であったため、当初計画の進め方と順番を変更して、ソフトウェアの開発を優先した。このため、2020年度に購入要諦であった設備備品の購入を後送りした。また、別プロジェクトの研究も同様の理由により、研究計画の変更を余儀なくされ、このプロジェクトから設備備品を借用し、研究遂行を行うことができた。このため、2020年度に執行予定だった設備備品費を2021年度執行予定とした。
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