研究課題/領域番号 |
19K04532
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
和田 修 神戸大学, 産官学連携本部, 非常勤講師 (90335422)
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研究分担者 |
小島 磨 神戸大学, 工学研究科, 准教授 (00415845)
海津 利行 神戸大学, 研究基盤センター, 助教 (00425571)
原田 幸弘 神戸大学, 工学研究科, 助教 (10554355)
北田 貴弘 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 特任教授 (90283738)
南 康夫 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 特任准教授 (60578368)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | InAs量子ドット / 量子ドット超格子 / 低温成長GaAs / 光伝導アンテナ(PCA) / 超高速キャリア緩和 / 電場増強構造 |
研究実績の概要 |
今年度は量子ドット超格子光伝導アンテナ(PCA)素子の基礎特性評価に取り組んだ。量子ドット超格子は、InAs 2分子層を堆積して自己形成した量子ドットを、GaAsスペーサー層(厚さ50 nm)を介して20層積層した構造である。これを用いてPCA素子およびホール効果測定素子を作成し評価を進めた。 量子ドット超格子の光学特性評価では、フォトルミネッセン(PL)、光電流のスペクトルにおいて量子ドット基底準位、第一励起準位、さらに第二励起準位の吸収に加えて、基底準位より長波長の1300~1600 nmにおいてブロードなピークを観測した。この吸収ピークは、GaAsのバンドギャップ内準位を介した吸収によるものと考えられ、長波長の光通信波長帯でのPCA動作可能性が期待できることが分かった。 量子ドット超格子の光伝導特性を調べるために、赤外LED照射下でのホール効果測定を行った。1550 nmのLED光照射時の移動度は、930 cm2/Vsであった。この値は、通常の低温成長GaAs(LT-GaAs)の移動度150-200 cm2/Vsの値より大きく、量子ドット超格子が長波長帯の動作にとって有利である可能性を示すことが分かった。 超高速応答特性については、波長800nm付近のフムト秒パルスレーザー光をPCA素子に照射して応答特性を評価する測定系を構築した。初期的評価として、PCA素子に超短パルス光を照射することで、3桁から4桁程度の抵抗値の減少を観測したが、弱励起状態でも抵抗値が大きく減少することから、光照射に伴う背景電流に注意を要することが判明した。 PCA素子構造の最適化に関しては、PCA素子の励起光吸収増強のための分布ブラッグ反射鏡(DBR)構造の詳細設計を行った。また、周期構造を用いたTHz電場増強構造に関する文献調査を行い、今後のシミュレーションに向けた指針を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに量子ドット超格子を用いたPCAを作製し、基礎的な光学特性・電気特性評価を明らかにしてきた。基礎的光学特性評価では、量子ドットの基底、第一、第二励起準位に由来する光応答に加えて、GaAsバンドギャップ内準位に由来すると思われる光応答を1300~1600 nmの波長で観測し、光通信波長帯でのPCA動作実現の可能性を示した。 赤外LED照射下でのホール効果測定により、量子ドット超格子の詳細な電気特性を調べた。ホール係数はLED波長に強く依存し、940 nm光照射では電子の移動度が正孔よりも大きく、1300 nmの場合には電子と正孔の移動度がほぼ同等となり、1550 nmの場合には正孔の移動度の方が大きくなることが分かった。これは、長波長励起下では、電子がより局在しやすい準位からの励起によって光電流が形成されている事を示しており、ギャップ内に存在する電子トラップが関与していると推定できることが分かった。 THz波発生・検出に関する評価では、800nm帯および1550nm帯での応答特性の測定実験に着手した。800nm帯実験系でTHz波検出用PCA検知器の補修、1550nm帯実験系における実験素子実装構造の細部調整などを進めているが、THz波特性のデータ取得に至っておらず、現時点でやや遅れが生じている。 PCA素子構造の最適化に向けては、励起光吸収増強のためDBR構造の導入が効果的であることをシミュレーションで確かめ、各光通信波長帯における多層構造パラメータを決定した。また、PCA構造最適化に向けたプラズモニクス構造の導入について検討し、周期構造を用いたTHz電場増強構造が効果的に活用できそうであるとの感触を得た。これにより、周期構造設計シミュレーションの検討方針を得た。 このように、THz波特性に関する評価で若干の遅れがあるが、次年度で修復可能と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
高効率のテラヘルツ波発生・検出に向けて、GaAs/AlGaAs分布ブラッグ反射鏡(DBR)の導入、量子ドット積層数など超格子構造の最適化を行った新たなInAs/GaAs量子ドット超格子PCA構造ウエハの結晶成長と素子作製プロセスを実行する。また、電場増強構造を導入したPCA構造のシミュレーション設計と製作プロセスの開発により、最適化PCA構造の提案および試作を行う。 PCA素子の長波長動作特性の評価のために、量子ドット超格子構造ウエハ基板にフェムト秒レーザーを照射し、ポンプ・プローブ分光法により光励起キャリアの寿命を評価する。さらにPCA素子のTHz発生・検知即製の評価のために、測定系および素子実装方法などの改善を進める。これに基づき、波長800 nm帯および1550 nm帯のフェムト秒レーザー光照射におけるテラヘルツ波の発生および検出特性を評価する。キャリア励起波長によるPCA特性の変化、キャリアの寿命、移動度などとの相関などに注目した総合的な評価研究を進める。また、差周波混合による電磁波発生の実験を組み合わせることで、PCA特性と量子ドット物性との相関に対する多角的な考察を行っていく予定である。 これらの検出器および発生器としての性能評価に並行して、最適化構造の検討を進める。特に、周期構造を用いたプラズモニクス構造の導入によるTHz電場増強構造に重点を置き、シミュレーションによる設計法の確立と製作方法の開発を進め、新たな素子の提案と試作・評価を行う。これらの研究を通じて、量子ドット超格子を用いたPCA素子の性能改善効果および励起波長を中心とした適用範囲を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はコロナ感染の蔓延により、実験作業に制約が出たため、研究の進捗にやや遅延が生じたこと、一方、国内外の学会・研究会の開催が減り、開催されてもオンライン開催となったため、実験材料費の購入、学会・研究会参加費・出張旅費の支出が大幅に減ったことにより、次年度使用額が発生した。 次年度は、この状況下で研究を加速するための計画を立てられると考えており、予算額を考慮して適切な実験進行および成果発表方法をとることにより、当初研究計画の達成を目指す。
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