研究課題/領域番号 |
19K04537
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
柴山 純 法政大学, 理工学部, 教授 (40318605)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | FDTD法 / テラヘルツ波 / 表面プラズモン共鳴 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は2つある。ひとつは、半導体InSbの薄膜を持つテラヘルツ(THz)帯での導波路型デバイス設計のための半陰的有限差分時間領域(FDTD)法を開発することである。もうひとつは、開発した半陰的FDTD法を用いてTHz表面プラズモン共鳴(SPR)センサ、および偏光子を解析・設計することである。 計算手法の開発については、昨年度に開発に取りかかった半陰的FDTD法の性能評価を詳細に行った。まず、TMモード解析のための半陰的FDTD法によりTM透過型THz偏光子を解析した。半陰的FDTD法は空間の特定方向の刻みが小さい場合に、その方向に陰解法を適用する。結果として時間刻み幅の上限が緩和され、計算時間の短縮が可能になる。本研究の偏光子ではInSb層が積層されており、その厚み方向に小さな刻みが必要になる。デバイスの厚み方向とTHz波の進行方向の刻みの比率を1:16とした場合、計算時間を従来の陽的FDTD法の36%まで減じることができた。その際、導波モードパワーの計算誤差は1%以下となった。この結果を電子情報通信学会EST研究会で発表した。さらに、TE波解析のための半陰的FDTD法も新たに開発し、偏光子の消光比が効率よく計算できるようになった。結果を電子情報通信学会総合大会で公表した。 偏光子の開発については、新たな構造の3次元偏光子を提案した。従来の偏光子では、モードの干渉を用いてTE波を除去していたため、デバイス長を正確に選択する必要があった。これに対して新たな偏光子では、コアの両側面にInSb層を付加しプラズモンの励振によりTE波を減衰させて除去する。結果として、デバイス長の選択に細心の注意を払う必要がなくなり、デバイス設計が容易になった。この結果を、電子情報通信学会ソサイエティ大会、国際会議(ISAP2020)で公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度には3次元の半陰的FDTD法を開発する予定であったが、2次元手法の開発にとどまった。進展の遅れた原因として、大学院生の大学への登校が制限され、十分な研究時間が確保できなかったことが考えられる。しかし、2次元半陰的FDTD法に関しては詳細な精度評価を行い、計算時間短縮の成果が得られ、3次元手法開発の足がかりとなった。 また、計画よりも進展した点として、別の大学院生が担当した、新たな3次元THz偏光子の提案が挙げられる。デバイスの長さ方向のトレランスが極めて高く、当初計画していたよりも高性能な偏光子の得られる目処がたった。さらに、InSb層を用いた、新たなクレッチマン型とオットー型導波路センサも提案した。この結果は速報誌Microwave and Optical Technology Lettersに掲載された。提案構造は2次元であるため、3次元センサへの拡張が課題である。
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今後の研究の推進方策 |
1)3次元半陰的FDTD法を開発する。細かい刻み幅が必要な方向にのみ陰解法を適用し、計算時間幅の制限を緩和する。どの程度計算時間が短縮できるか検討する。 2)開発した半陰的FDTD法により、3次元センサ、偏光子の解析を行う。特に、コアの両側面にInSb層を設けた新たなセンサの詳細な設計を行う。バッファ層、InSb層の厚さが消光比特性に及ぼす影響を詳細に検討する。 3)得られた成果を、学会発表、論文等で可能な限り公表していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により学会発表、特に国際会議が延期され、旅費と学会参加費が消費できなかった。21年度は可能な限り学会に参加し、余剰分を活用する。また、論文を積極的に投稿し、その掲載料として助成金を利用する。余剰分によってはワークステーションを購入し、研究の進展を促す。
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