塩化物イオンの見掛けの拡散係数(以下,拡散係数)はコンクリート構造物の塩害に関する耐久性照査において重要な物性値であり,実績の少ない新材料においては,浸せき試験や電気泳動セル試験等の室内試験で評価される.しかし,これらの室内試験は水で飽和した状態の供試体を用いるため,室内試験と実環境曝露試験とでは,得られる拡散係数に含水率の相違に基づく差異が生じることが指摘されている.一方,導電率は不飽和時でも測定可能であり,使用材料や配合の影響を受けるもののコンクリートが飽和状態のときには拡散係数とも概ね正の相関があることが知られている.したがって,両者の含水率依存性に相似性が確認できれば,導電率と含水率の関係および飽和状態で得られる拡散係数から不飽和時の拡散係数を予測して塩害に関する耐久性照査に活用できる可能性がある.そこで本研究では,コンクリートの導電率と拡散係数の含水率依存性の相似性を検証するために,最大4年間塩害環境下に暴露した供試体の導電率,拡散係数,および相対含水率を測定した. その結果,コンクリート表面から塩化物イオンの浸透が確認された範囲の平均相対含水率が55 %~83 %であると,ばらつきはあるものの飽和状態に対する不飽和状態の導電率ならびに拡散係数の比は同程度となり,コンクリートの導電率と拡散係数の含水率依存性の相似性が実環境下においても確認された.しかし,干満帯や飛沫帯に暴露され,かつ,水セメント比が40%以上のコンクリートにおいては前記の相似性が確認できず,その理由としては移流の影響であることが推察された.これらの結果より,水の移流の影響が小さい環境および配合であれば,浸せき試験によって得られる飽和状態での拡散係数を導電率の含水率依存性に基づいて低含水状態のコンクリートの拡散係数に修正し,鉄筋コンクリート部材の塩害に関する耐久性照査に活用できる可能があることが示唆された.
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