研究課題/領域番号 |
19K04555
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
日比野 誠 九州工業大学, 大学院工学研究院, 准教授 (90313569)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マクロセル腐食 / ターフェル勾配 / アノード律速 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,異なる性質の鉄筋コンクリートブロックを接続することでマクロセル回路を形成し,その時の分極抵抗いわゆるターフェル勾配を評価することである.令和2年度は,アノード部のターフェル勾配を評価する予備的段階で,アノード律速となるマクロセル回路の条件について検討を行った. 律速モードをカソードからアノードに移行させるには,カソード部における酸素の供給と消費を促進する必要がある.そこで,今回の実験では昨年度と比較し,カソードブロックに配置した鋼材のかぶりを43.5mmから18.5mmに減少させた供試体を準備した.さらに,鋼材表面が不働態化することを防止するために単位セメント量に対して0.3%の塩化物イオンを添加した.アノード律速となる条件の検討では,カソードブロックに使用するモルタルのW/Cを40%と70%の2水準に変化させた.酸素の消費量を増大させるため,配置する鋼材の本数を1~4本まで変化させた.アノードブロックに使用したモルタルの配合はW/C=40%で塩化物イオンの添加率は単位セメント量に対して1.5%とした.アノードおよびカソード両ブロックの電位を測定し,接続前後での電位の変化量を百分率で表した分極の比率にもとづき律速モードを判定した. 結果として,カソード部のW/Cを40%から70%に増加させたときにアノード部の分極の比率が大きくなり,酸素の供給量が増加したことが示唆された.さらに酸素の消費量に関しては,カソード部の鋼材の表面積がアノードに比べ4倍以上とすればアノード律速のマクロセル回路を形成できることが明らかとなった.ただし,カソード側に塩化物イオンを添加すると自然電位が卑に移行する傾向があり,アノード部との電位差が小さくなった.その結果,今回の測定ではアノード律速となったマクロセルの方がカソード律速の場合よりもマクロセル電流量は小さくなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
進捗・理由:令和元年度は,研究代表者の提案するマクロセル形成時のターフェル勾配の評価方法を検証する実験を行った.カソード律速のマクロセル腐食に着目し,性質の異なる鉄筋コンクリートブロックを準備し,回路接続時の電位と電流からターフェル勾配を推定することができた.続く令和2年度では,アノード律速時のターフェル勾配を評価するため,1つにはアノード律速となる条件の明確化,2つ目はアノード律速時のターフェル勾配の評価を予定していた.しかし,新型コロナウイルスの影響で教員および学生の入構が制限され,限られた期間で実験を行わざるを得ず,結果的にアノード律速となる条件を部分的に検討するところに留まっている.
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度までの成果で(1)マクロセル形成時のターフェル勾配を推定できること,(2)アノード律速となる条件の一部が明確になったことで,令和3年度は以下の項目に重点を置いて研究を進める. (1)アノード部のターフェル勾配の測定:令和2年度までに明らかとなったアノード律速のマクロセル回路の条件にもとづき,カソード部の塩化物イオン含有量を変化させ,自然電位とマクロセル電流量を測定し,アノード部のターフェル勾配を評価する. (2)亜硝酸塩の効果:ここまででマクロセル回路におけるアノード部,カソード部のターフェル勾配をそれぞれ評価することができるようになるので,塩化物イオンと亜硝酸塩を添加したブロックを作製し,亜硝酸塩がターフェル勾配に及ぼす影響を評価する. (3)亜硝酸塩の防食効果:亜硝酸塩がコンクリート中の鉄筋に対して防食効果を期待されるのは,断面修復後のマクロセルによる再劣化の抑制である.そこではじめに,亜硝酸塩を添加せず,塩化物イオン含有量の差でマクロセル腐食を発生させる.その際,塩化物イオン量の多いブロックがアノード,塩化物イオン量の少ないブロックがカソードとなる.次に断面修復を想定し,アノードである塩化物イオン含有量の多いブロックを塩化物イオン量はゼロで亜硝酸塩を含むブロックと交換する.こうすると,はじめに少量の塩化物イオンを含んでいたブロックは相対的に塩化物含有量の多いブロックとなり,断面修復後にはアノードとなるはずである.この場面で,亜硝酸塩の作用によってカソード反応が抑制され,結果的に断面修復後のマクロセル反応全体が抑制されるのであれば,亜硝酸塩の防食効果が評価されると考えられる.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は新型コロナウイルスの影響で教員および学生の学内での活動が大幅に制限されたため,学内で実験を継続的行うことが困難で令和元年度に作製した供試体を可能な限り再利用するなど実験の総量が減少しているため,予算の使用が減少している.くわえて学生が実験を行えないので謝金の支払いがなく,学会発表は中止もしくはオンライン開催となったため,出張旅費も発生しなかったため多くの予算が令和3年度へ繰越となった. 令和3年度は,教員,学生に対する感染防止対策を確立したうえで可能な限り実験を行う予定である.
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