研究課題/領域番号 |
19K04567
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
古川 幸 東北大学, 工学研究科, 助教 (30636428)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アンカーボルト / 露出柱脚 / 接合部回転性能 / 鉄骨置屋根 |
研究実績の概要 |
本研究は,地震時に極めて厳しい応力状態におかれる鉄骨置屋根支承部の「高靭性化」により,災害時における体育館の安全な継続使用が可能な構造システムの実現を目的とする。提案する屋根支承部の設計手法の確立するため,[I]支承部の力学的保有性能の評価と,[II]支承部の力学的要求性能の評価を段階的に行う。 昨年度(初年度)は,[I]に関連する,提案する接合部の力学的性能と回転性状を把握するためのせん断力載荷実験を行い,接合部の力学性能の評価方法を提示した。[II]については,想定する構造物の地震動応答を想定した静的解析を行い,想定する構造物では接合部回転量が小さく留まることから,[I]の実験で明らかとなった課題は致命的な課題とはならず,むしろ接合部自体の耐力が重要であることを明らかとした。 本年度(2年目)では,以上を踏まえて,[I]支承部の力学的保有性能の評価に焦点を当て,1年目の接合部回転性状把握実験で明らかとなった1本のアンカーボルトにせん断力と接合部の回転によって生じる引張力の双方を同時に負担させる問題の解決案提案と,接合部自体の耐力評価を実験的に検討することを当初予定していた。コロナ禍において研究作業が著しく制限されたことから,予定していた全実験の実施が難しくなり,前者についてのみ実験を実施し,後者については試験体製作のみに留め,3年目に実験を実施することとした。前者のアンカーボルトへの負荷を軽減させる工夫については,アンカーボルトナット下にばね座金を挿入して接合部の回転変形を吸収する機構を追加することで,アンカーボルトにおける引張力の発生が防げることを実証した。さらに,スペーサーをかませることで,接合部の回転を阻害せず,かつ横ずれも防げることが分かった。以上から,アンカーボルトへ過度な負荷をかけずに,当初想定した高い耐震性能を保有する接合部の実現が可能であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,[I]支承部の力学的保有性能(支承部回転性能,せん断耐力,曲げ耐力)の評価を実験的検討で行い,[II] 支承部の力学的要求性能の評価を解析的検討で行うことで,提案する支承部の実用化を目指す。 初年度においては,[I]支承部回転性能・曲げ耐力の評価を実験的に行い,接合部がおおむね想定する回転性能を有していることを明らかにするとともに,基礎的な接合部回転剛性と曲げ耐力評価法を提案した。また,[II] 支承部の力学的要求性能の評価については,解析的に簡易接合部では制御が難しい回転角に関する要求性能が極めて小さいことから,[II]については今後の重点検討はある程度省略可能であることが分かった。 したがって,本年度では,[I]支承部回転性能・曲げ耐力について初年度に明らかとなった課題の改善案の検討と,[I]支承部せん断耐力評価に焦点を当てた。前者に関しては,当初の研究計画には予定されていなかった課題であるが,アンカーボルト1本で接合することで支承部の力学特性を明確化し,接合部の耐力の向上と耐震性能の信頼性を高めることを目的とした本接合部においては,致命的な問題である。そこで,[I]支承部回転性能・曲げ耐力の評価が当初の予定より早く目途が付いたことを踏まえ,2年目は特に,この課題に特に焦点を当て,改善案を検証した。後者については,試験体製作に留め,実施は3年目とした。
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今後の研究の推進方策 |
[I]支承部の力学的保有性能(支承部回転性能,せん断耐力,曲げ耐力)と,[II]支承部の力学的要求性能の評価のうち,[I]支承部回転性能・曲げ耐力と[II]支承部の力学的要求性能の評価については,概ね所定の成果を挙げた。そこで,最終年度については,当初2年目に実施予定であった[I]せん断耐力評価に焦点を当てる。具体的には,接合金具のRC部材への固定度が接合部のせん断耐力を大きく左右することから,固定度を変数とした試験体を用いてせん断耐力を評価する。そしてその成果を以て,提案する屋根支承部の設計手法の確立する。
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