本研究は,地震時に極めて厳しい応力状態におかれる鉄骨置屋根支承部の「高靭性化」により,災害時における体育館の安全な継続使用が可能な構造システムの実現を目的とする。提案する屋根支承部の設計手法の確立するため,[I]支承部の力学的保有性能の評価と,[II]支承部の力学的要求性能の評価を段階的に行う。ここで提案する接合部は(1)1本のアンカーボルトで接合することで支承部の回転剛性を下げて曲げモーメントを小さく抑え,アンカーボルトが常時せん断力のみを負担する状態とし,(2)鋼板をアンカーボルトに溶接することで,アンカーボルトが早期に曲げ降伏することを防ぎ,せん断耐力を十分に発揮できるという特徴を有する。 本年度(3年目)では,[I]支承部の力学的保有性能の評価の内,接合部自体の耐力を実験的に検討した。試験体は従来型接合部と1本のアンカーボルトを用いた提案型接合部とした。実験より,従来型の接合部では,初期ひび割れが顕出するせん断力が増加する傾向がみられるが,ひび割れ顕出後はひび割れが急速に進展し,せん断耐力はそれ以上増加しなかった。1本のアンカーボルトのみを用いた接合部では,初期ひび割れが顕出するせん断力がやや低下する傾向がみられるが,ひび割れ進展は緩慢でせん断耐力は増加した。しかしアンカーボルトの曲げ降伏は防げず,せん断耐力は微増にとどまった。一方,アンカーボルトに鋼板を溶接した提案型接合部では,せん断力に対して高い接合部剛性を保ち,3割以上せん断耐力が増加した。また,それぞれの試験体のひび割れ耐力は埋込部材のテコ作用力の影響を考慮した側方破壊耐力,鋼板を溶接したアンカーボルトを用いた提案型接合部の最大耐力はRC部材のせん断耐力式で評価できることを明らかにした。
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