研究課題/領域番号 |
19K04573
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
宮下 剛 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (20432099)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 維持管理 / 鋼橋 / 補修 / CFRP / FEA |
研究実績の概要 |
全国にある橋梁の数は,約73万橋と言われる.これらの多くは1960年代の高度経済成長期に建設され,2018年時点で建設後50年を経過した橋梁の割合は25%に達し,10年後の2028年では50%を超えると推定される.このような状況を受けて,平成26年に,全ての橋梁について,その点検を近接目視により,5年に1回の頻度で行うことが法令化され,平成30年度に1サイクル目が終了した. 確かに,これまで現況すら把握してこなかった橋梁の点検を法令化して実施することは重要である.しかし,問題は,老朽化する橋梁の数が確実に増加することが明らかな中で,現状は橋梁を「見る」ことに主眼が置かれ,限られた予算のもと,「見つかった」損傷に対して,どのように具体的な措置を行うかという議論が皆無なことである.合理的に考えれば,現時点から,判定区分Ⅳが含まれるかもしれない判定区分Ⅲと判定された橋梁に対して,予防保全の視点に立った対策を行う必要がある. ここでは,効率的な補修工法の開発が求められる.鋼橋に対しては申請者が開発を進めてきた炭素繊維(CFRP)シートによる補修工法が有効である.近年,橋梁における損傷形態として,設計時点の想定が困難であり,かつ点検も容易ではない部位に腐食損傷が見つかり始めている.例えば,上路ワーレントラス橋におけるガセットプレートと下弦材が接続する溶接部の腐食損傷である.そこで,本研究では,腐食損傷したトラス橋ガセットプレートを対象に,既に実施した実験結果を参考にしながら有限要素解析(FEA)を通じて,残存耐荷力の評価や破壊形態の把握をするとともに,CFRPシートを用いた合理的な補修工法の確立に向けた検討を行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で対象とした試験体は,実橋の1/2サイズとした鋼トラス橋の格点部であり,損傷形態として腐食による断面欠損を想定した.載荷試験の結果,破壊の起点は,鋼材とCFRP間に挿入されたポリウレアパテ材のはく離であることが確認された.このため,FEAモデルでは,このはく離現象を表現するために,ガセットプレートとCFRP間の接着層をソリッド要素で,ガセットプレート以外の鋼構造部分とCFRPシートをシェル要素で,ポリウレアパテ材をインターフェース要素で,それぞれモデル化することとした.鋼材の材料モデルは,バイリニアモデルとし,ミーゼスの降伏条件を適用した.接着層ならびに断面欠損部を充填するエポキシパテ材については,載荷過程で大きな損傷が見られなかったことと,計算負荷を考慮して,本検討では,等方線形弾性体と仮定した.また,CFRPシートについても,繊維方向をふまえた直交異方性を考慮するものの,線形弾性体と仮定した.ポリウレアパテ材については,法線方向とせん断方向にボンドスリップモデルを設定し,材料試験から物性値を同定した上で材料モデルを決定した. 実験結果と解析結果について,荷重-鉛直変位関係を比較すると,本解析では,実験の初期剛性ならびにガセットプレートの局部座屈に起因する荷重-鉛直変位関係の変化が再現された.この荷重を超えると,実験と解析には,残留応力の影響によると考えられる両者の差が見られるものの,最大荷重の差異(解析/実験)は,最大で11%と小さくなった.また,載荷を終了した時点での破壊形態については,FEAではCFRPシートの破断を再現しきれていないものの,応力集中が発生している様子や鋼材の座屈,ポリウレアパテ材のはく離に起因するCFRPシートのはく離状況が再現されており,非常に高い精度の解析が実現された. 以上より,研究の進捗状況として概ね順調に進展しているものと判断する.
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今後の研究の推進方策 |
既往の研究でも,CFRPシートのはく離強度を接着材に生じる最大主応力で評価する事例があるものの,接着剤の非線形材料特性の検討は十分ではない.また,FEAでも,CFRPシートや接着剤の厚さが薄いことからモデル化が難しく,CFRPシートの異方性や接着界面の付着モデルを十分に考慮した解析手法に関する研究はほとんどない.そこで,本研究では,CFRPシートにより補修・補強された鋼部材を対象として,シートと接着剤の力学挙動や付着界面のはく離挙動などを考慮した理論解析ならびにFEAを用いた解析手法の構築を目指すこととした.その結果,腐食損傷により断面欠損を生じた鋼トラス橋格点部の残存耐荷力ならびに損傷量に応じた破壊モードの変化を明らかにするとともに,残存耐荷力の簡易評価式を提案した.さらには,一次元の棒材モデルを対象に,材料非線形性を考慮した力学モデルにもとづく,微分方程式による理論解析を行い,鋼材の降伏やCFRPシートの破断,接着層の軟化・破断を考慮した上で補修効果を評価することが可能となった.これらの知見をもとに,CFRPシートを接着貼付した鋼トラス橋格点ガセットプレートに対して,FEAモデルを構築し,パラメトリック解析を進め,鋼材の座屈,ポリウレアパテ材のはく離に起因するCFRPシートのはく離状況を再現しうる高精度な解析が可能となった.今後は,CFRPシートや接着剤の非線形性を考慮するといった材料モデルの部分的なアップデートは必要ではあるものの,本研究の成果から,インフラ構造物の効率的かつ効果的な補修・補強工法に資するデータの提供が可能となる.
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