本研究では,疲労き裂の発生が多く報告されている道路橋鋼床版を対象に,特に狭隘な構造の床版端部の垂直補剛材と縦リブの間の領域について,溶接残留応力の性状を解明するとともに耐疲労性の向上を目指す. 2019年度までの結果により,対象とする道路橋鋼床版の端部垂直補剛材と縦リブの間の領域をモデル化した小型供試体に対し,局所加熱により当該溶接部の残 留応力が低減される可能性を熱弾塑性解析シミュレーションを通じて確認するとともに,実測とも整合することを検証している. 2020年度までの結果により,熱弾塑性解析シミュレーションを発展させ,残留応力低減効果が見込まれる局所加熱条件を探索し,その結果に基づき,局所加熱実験を再実施した.そして,溶接のままと局所加熱を施した状態の供試体を用いて疲労実験を実施した.その結果,局所加熱した供試体の疲労寿命が溶接のままに比べ大きく向上する傾向が得られた.なお,疲労寿命の向上効果は作用する繰返し外力の条件(引張あるいは圧縮,ならびに大きさ)の影響を強く受けることが分かった. 2021年度は,上記の現象をより詳細に説明するとともに,疲労寿命の向上効果がより大きく見込まれる載荷条件を明確にするため,溶接残留応力,局所加熱後の応力,載荷時の応力までを含めた対象領域の応力状態を追跡するためのシミュレーションを実施した.その結果,局所加熱により残留応力を低減させた場合,局所加熱を施さない場合に比べ,繰返し荷重作用下における溶接部の応力振幅が小さくなることを明らかにした.圧縮応力作用下では,引張応力作用下に比べ疲労耐久性向上効果が大きく得られる理由が,この応力振幅の抑制によるものである可能性が示唆された.また,一般的に使用される他の疲労寿命向上技術と本研究で利用した局所加熱を比較し,局所加熱による疲労寿命向上技術の位置づけを明確にした.
|