研究課題/領域番号 |
19K04587
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研究機関 | 明石工業高等専門学校 |
研究代表者 |
三好 崇夫 明石工業高等専門学校, 都市システム工学科, 准教授 (40379136)
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研究分担者 |
玉田 和也 舞鶴工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (00455148)
高井 俊和 九州工業大学, 大学院工学研究院, 助教 (00759433)
岩坪 要 熊本高等専門学校, 生産システム工学系ACグループ, 教授 (60290839)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 組立部材 / 腐食 / 断面欠損 / 耐荷力 / 残留応力 / 初期不整 / 経年鋼材 / 文化財 |
研究実績の概要 |
実橋組立部材の腐食状況を調査するため,建設から80年以上が経過する鋼アーチ橋の現地調査,建設から110年以上が経過する下路式単純支持トラス橋下弦材からの撤去組立部材の板厚と形状計測,ならびに組立圧縮材の設計時の考え方を整理し,数値解析によって耐荷性状を検討した. 現地調査では,橋台やアーチ支点近傍のアクセス可能な桁下から,写真撮影と板厚計測を実施し,腐食箇所,部材数の確認や腐食要因を推察した.その結果,伸縮装置からの漏水に起因する鉛直材レーシングバーの破断,溝形鋼やタイプレートには腐食が見られた.また周囲の植生による日射の遮断や落葉が湿潤環境をもたらしたことに伴い,アーチ支点周りの腐食が目立った.また,興味深い損傷として,板厚中央部で板幅方向の割れを生じたガセットプレートも見られた. 実橋撤去部材は,国登録有形文化財 森村橋の復原工事に際して,静岡県駿東郡小山町からご提供いただいたものであり,レーシングバーの殆どは消失しており,溝形鋼には著しい減肉や孔食が生じていた.入手できた4つの撤去部材のうち1本についてはブラスト後,3Dレーザスキャナによる形状計測を実施した.また,3Dレーザスキャナによる計測精度を確認するため,キャリパーゲージを用いた板厚計測も実施し,両計測結果が良好に一致することを確認した. 数値解析では,溝形鋼からなる,長さを変化させた柱部材,シングルレーシングバーを3~6連に変化させた溝形鋼からなる組立短柱を対象に,圧縮力を載荷する弾塑性有限変位解析を実施した.組立材に関しては,リベット位置をフランジの板幅方向に変化させた場合の検討も行った.その結果,かなり長い柱でなれば,レーシングバーの耐荷力への寄与は小さいこと,リベット位置がフランジ自由縁に近づくほど,耐荷力の上昇がみられることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時には,腐食した組立部材を持つ橋の腐食状況の現地調査,撤去部材の寸法,板厚計測,引張試験片や残留応力計測用供試体の採取を2019年度の予定として掲げており,その通りに進捗している.ただし,3Dレーザスキャナによる撤去部材の形状計測結果に基づく板厚や板厚中心座標の分析には,リバースエンジニアリング分野の専門知識が求められるため,当該分野の技術者に相談,ご指導頂きながら分析を進めている.残留応力計測に際して,撤去部材のブラスト以外の方法による塗膜や錆の除去,熱影響の少ない切断方法に関する検討も必要であり,予備実験を実施しながら検討を進めている.それにより,当初の予定に比べて遅れが生じている. 現地調査で見られた,ガセットプレートの板厚方向中央部に板幅方向に生じた割れについては,目下のところその原因は不明であり,腐食とは直接的な関連はないが,橋の耐荷力を低下させる要因になりうるものである.さらに,森村橋の撤去部材に関しては,同部材の断面を構成する溝形鋼は製造から110年以上が経過する海外からの輸入品であり,現在の鋼材とは異なる工程を経て製造されていた時代の極めて貴重な試料である.そこで,割れが生じた原因究明,溶接補修技術の開発や,同時期の鋼材の材料特性に関するデータの蓄積に資するため,シャルピー衝撃試験や化学成分分析なども追加することとして,試験片の採取や試験の準備も進めており,今後,それらの実施に伴う遅れも見込まれる. 2019年度については,組立材が用いられていた時代の設計基準の調査や圧縮組立材の耐荷力解析なども別途進めており,組立材の数値解析上の問題点などの洗い出しはある程度進んでいるため,2020年度に予定していた,有限要素法解析モデルの構築とその簡略化の検討についてはその一部については検討が終了している状況にある.
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今後の研究の推進方策 |
基本的には,申請時と同様の流れで研究を進める.2020年度に関しては,撤去部材の3Dレーザスキャナによる寸法計測結果に基づく,板厚,板厚中心偏心量の分析,同部材から採取した試験片を用いた材料試験,同部材を構成する溝形鋼の残留応力計測と有限要素法による組立圧縮材の耐荷力解析の四本柱で進める. 撤去部材の板厚等の分析に関しては,点群データの欠陥等を専用のソフトウェアで修復し,3次元CADソフトウェアで読み込める形式に変換する.そして,同ソフトで板厚,板厚中心の偏心量や断面積を分析し,それらの部材軸方向の分布特性の把握や統計的な評価を行う. 材料試験に関しては,撤去部材の溝形鋼腹板,フランジとレーシングバーから採取した試験片を用いた引張試験,Vノッチシャルピー衝撃試験,化学成分分析等を実施する.機械的特性値やその他材料特性値については,SS400材に関するそれらの値と比較する. 残留応力は,撤去部材のうち著しい腐食に伴う減肉を生じた溝形鋼と,健全な溝形鋼の部材軸方向成分を対象に計測する.同部材は材料試験片を採取した部材と異なるため,別途同部材から試験片を採取して,弾性係数や降伏点を把握するための引張試験も実施する.また,計測においては,データ蓄積等に資するため,非破壊計測手法の一つである磁歪法の適用も試みる. 有限要素法による耐荷力解析では,前年度に調査した実橋の竣工図面を参考に,圧縮組立材の解析モデルを設定し,調査結果に基づいて,レーシングバーや溝形鋼,タイプレートの腐食減肉を断面欠損として与え,それらのモデル化,部位,発生個所が耐荷力に及ぼす影響について解析的な検討を進める.残留応力が計測できておらず,溝形鋼に関する残留応力計測事例は極めて少ないため,当面は残留応力の影響を無視して検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に関しては,日程的に代表者と全分担者の現地調査への参加が困難で,現地調査に必要な旅費が発生しなかったことや,現地調査とそのとりまとめ,撤去材の納入までに時間を要したことなどにより,有限要素法による圧縮組立材の耐荷力解析に関する打ち合わせに要する旅費が発生しなかったことにより,結果的に未使用額として28万円程度を次年度に繰り越すこととなった.本年度に関しては,学協会主催の講演会やシンポジウムでの成果発表に伴う旅費,撤去部材から採取した試験片の材料試験や有限要素法解析ソフトのライセンス更新などに費用が発生し,本年度請求分と合算して支払いが生ずる見込みである.ただし,研究は概ね予定通り順調に進行しており,特段の問題はないと考える.
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