研究課題/領域番号 |
19K04593
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
小林 薫 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 教授 (80443638)
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研究分担者 |
松丸 貴樹 公益財団法人鉄道総合技術研究所, 構造物技術研究部, 主任研究員 (00425927)
森井 俊廣 新潟大学, 自然科学系, フェロー (30231640)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | キャピラリーバリア / 破砕貝殻 / 盛土 / 短時間強雨 / 安定性 / 洗堀・浸食 |
研究実績の概要 |
地盤内への降雨浸透を制御する技術の1つとして,上層に細粒な土,下層に粗粒な土を敷設した層状のキャピラリーバリア(capillary barrier.以下,CBと記す)地盤がある.CB地盤は,地盤深部への降雨等の浸透遮断機能を有し,この層状地盤を傾けることで排水機能も発揮する.また,CB地盤を構成する粗粒な土の代替材として,破砕した貝殻が利用できることが報告されている.本研究は,多発する豪雨時でも盛土の安定性を維持させることを目的に,環境負荷低減にも繋がる破砕貝殻を用いたCB地盤構築に伴う浸透遮断機能と共に,同時に付加される2つの機能を把握するための基礎的実験と数値解析を実施した.その結果,盛土斜面の浅層部に設けた破砕貝殻層によって,①CB地盤のブレークスルー後における破砕貝殻層の浸透水流下誘導機能および②斜面上を流下する水に対する盛土斜面表層部の浸食・洗堀抑制機能を有していることを確認した.主な知見を以下に示す. 1)破砕貝殻層は,層厚が厚くなるほど,また,土槽の傾斜角度が大きくなるほど,ブレークスルー後の浸透水を盛土法尻の下流側へ誘導することが分かった. 2)破砕貝殻層の浸透異方性については,本実験の範囲では透水係数比 Kz(=Kx/Ky)は8.5程度である.ここで,Kx:水平方向の透水係数,Ky (=ks):鉛直方向の透水係数(飽和透水係数)とし,水平方向と鉛直方向の透水係数の比をKzと定義する. 3)斜面浅層部に設けた破砕貝殻層は,豪雨時の斜面流下水により盛土に大変形が生ずるまでの時間を延ばせる可能性があると共に,盛土の大変形の抑制により,盛土の安定性確保に寄与する可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題で計画していた主な研究内容は、以下のⅠとⅡである。 Ⅰ)粒径、異方性、極低拘束圧を考慮した扁平な破砕貝殻の強度/変形・浸透・締固め特性の把握 :貝殻はホタテ貝殻(青森県産)を用いて、実績から80℃で24時間炉乾燥した後に、斜面上での施工を想定した破砕貝殻を用いて各種試験を実施した。なお、扁平な破砕貝殻の強度・変形特性は、飽和度を変化させながら一面せん断試験で、透水性に関する異方性は、円筒の土の透水試験と動揺の方法で飽和透水係数を求め、異方性については立方体供試体(10 cm角)を用いて把握した。また、水分特性曲線は、低保水性であり土柱法(細粒な土はφ10 cm小型円筒カラム装置)で求めた。締固めについては、粒子破砕を考慮する必要があるため、事前検討して今後実施する予定である。 Ⅱ)豪雨時の非定常吸・排水過程における CB 限界長、飽和度分布及び浸出水量の定量的評価 :大型土槽を用いた誘導 CB 地盤に、豪雨も想定した①最大降雨強度(3条件)、②降雨継続時間(4条件)、③降雨パターン(3条件)、④総降水量(3条件)を組合せた条件と、⑤土層勾配(3条件)を順次組合せた実験を行い、非定常状態でのCB限界長、CB地盤内の飽和度(体積含水率)分布の変化、土槽底部の流出箇所と各流出水量の定量的評価を行い、豪雨時の吸水(排水)過程でのCB性能を定量的に評価した。加えて、ブレークスルー後の破砕貝殻層中の浸透挙動を定量的に把握し、数値解析による再現解析を行ない斜面法尻側に浸透水を流下誘導する挙動を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
降雨浸透特性の変化を定量的に評価した上で、豪雨時の高飽和度分布を示す実験ケースに対し、CB地盤を含む盛土斜面(法面勾配は1:1.5)が崩壊するまで、①降雨強度を上げるパターン(MAX:120 mm/h想定)と②土槽勾配を急勾配に上げるパターンの2種類で盛土斜面の崩壊実験を計画している(すべり解析による解析的検討に変更する可能性有)。斜面崩壊後の崩壊パターン等を確認し、崩壊時のすべり面がCB地盤の層境界面を通過していないこと等を確認した上で、飽和度分布等を考慮した斜面安定性評価を数値解析にて行う。 最適な誘導CB地盤仕様で実形式・実規模大のフィールド実験(JR総研の実験ヤード)を行い、社会実装に目処をつけるため、実験時に取得した各種管理用データ(乾燥密度、原位置透水試験の結果、施工性等)を基に貝殻の転圧破砕法及び誘導CB地盤の施工法・品質管理法のガイドラインを確定する。また、誘導CB地盤を含む盛土内飽和度分布、サクション、表流水量、降雨・蒸発量と斜面の地表面沈下・変状の実測データを基に長期的安定性を実用に供し得るレベルで検証する。 ②斜面上で貝殻を重機で転圧破砕するのが困難な場合、所定粒径に貝殻を破砕後、斜面上に撒き出して転圧整形する方法に変更する。 破砕貝殻の水分特性曲線(令和元年度)は、吸・排水過程でヒステリシスが生じると共に、異方性が顕著にあらわれる。解析コードに異方性水分特性曲線とそのヒステリシスを考慮できる浸透特性モデルを組み込み、誘導CB地盤特有の浸透挙動を精度良く再現できる解析コードに高度化する。その上で、大型土槽実験及びフィールド実験で得られた豪雨時、長期間の実測データを検証用データとし、解析コードの信頼性向上を図る。加えて、実験では困難な線状降水帯に伴う極端な短時間豪雨条件でシミュレーションし、豪雨時の誘導CB地盤を含む盛土内飽和度分布を解析的に検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に予定していた土木学会関東支部技術研究発表会において、発表会が中止になったことに伴う旅費(発表補助の学生を含む)などの執行が無かった。次年度、他学会を含めて投稿・発表することとしている。
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